ピアノから聴こえる共鳴音、いったいどこから?

ピアノドクターChants

ピアノドクターChants(チャンツ)
(滋賀県米原市)
 鳴海さん

全国のピアノ愛好家の皆さん、こんにちは!

滋賀県を中心にピアノ調律を行っている、ピアノドクターChants 鳴海です。

今回は、ピアノ調律の仕事で実際に体験した、ちょっとおもしろいエピソードをお話したいと思います。

それは、毎年きちんと調律をされているSさんの電話から始まりました。Sさんは、タレントのRIKAKOさんにちょっと似ている方で、高校生の娘さんがピアノを弾いてます。

Sさん:「あのぅ~、昨日からうちのピアノ、決まった音を弾くとジィーンと鳴るんですけど…」

じつは、このようなクレーム、けっこう多いのです。特に、調律した直後はそれまでと音の周波数が変わるため、よくこういったことがおきます。

ただ、ピアノの中に原因がある場合と、ピアノ本体の外に原因がある場合があります。

私の場合、割合で言えば、ピアノが原因は7割くらい。よくあるのは、いろんな部分のネジのユルミ、また、パネルの接触部分の隙間などです。

ときに、想像できないようなところで共鳴することも……。そんなとき、共鳴箇所を見つけるのは、かなりやっかい。原因を探すのに、1時間以上かかったこともあるほどです。

話を、Sさんにもどしましょう。

その後、お宅に訪問し、どの音を弾くと共鳴するのか聞いてみました。しかし、Sさんでは詳しいことはわからないようで、娘さんを呼んでもらいました。

すると娘さんが現れ、これとこれと言って、おしえてくれました。さっそくその音を弾いてみると、「ジィーン」という生理的にイヤな金属音が……。

「確かに、どこかで共鳴している」心の中で、そうつぶやきました。

わたしは、大きく息を吸い込んだ後、「う~む・・・」とうなり、これから原因を発見したいので少し時間がほしいとSさんに伝えました。

そして、ピアノの部屋は、私だけに。「すぐにわかるといいんだけど……」こんどは、ついつい口から、ブツブツつぶやいてしまう。

まさに、暗中模索。その鍵盤をくりかえし打ちながら、共鳴している方向をさぐります。

「これか!」と思った箇所を手で押さえ、共鳴が消えれば そこが原因ということです。

しかし、あちこちピアノの部品を押さえてはみるものの、いっこうに「ジィーン」という音は消えない。

ネジの緩みそうな箇所を重点的に、ええぃ、これかあれかっ!とむきになってやってみる。

むきになっているせいか、あちこち押さえる手の動作も、早くなっている。それに、のどもえらく渇いてきた。

しかし、しばらくそうやって繰り返しているうち、闇の中に一条の光明が。「ジィーン」という音が、どうもピアノの左側から聞こえてくるように感じられたんです。

その方向に視線をうつし、ピアノから少し離れたところをふっと見ると、金属製のゴミ箱が2つ重ねて置いてありました。中は空っぽです。

「・・・もしかして。」

そのゴミ箱に手を伸ばし、しっかり押さえながら鍵盤をたたきました。

「やった! 消えた。」

共鳴の悪さをしていたのは、なんとこの重なったゴミ箱だったのです!

私は声をはずませながら、すぐにSさんを呼びました。

Sさん:「どこで鳴ってたんですか?」

私:「それが・・・」ゴミ箱を人差し指でチョンチョンと指差すと

Sさん:「エエエーッ!!」

Sさんは、すぐに娘さんを呼びました。

Sさん:「あんた、ゴミ箱のゴミ、いつもはそのままなのに、昨日はめずらしく捨てたでしょ? ゴミ箱で鳴ってたんやってー」

娘さん:「エーッ! そうなんやー。慣れんことすると、こんなことになるんやね。」

それで、みんなで大笑いっ。

確かに、ゴミがいっぱい残っていたら、共鳴はしなかったかもしれません。空っぽのゴミ箱が2つ重ねられていたことによって、その接触部分が共鳴していたようです。

これはとってもおもしろい例ですが、他にもいろいろ経験してます。カーテンレールやら、額縁、ストーブ、食器棚などが、原因だったことも。

さて、原因もわかり、やれやれ。特に料金も頂かずに帰るつもりで玄関に向かうと、

Sさん:「これ、私の弟の会社のものだけど、よかったら。」

Sさんは、ゴミ箱が原因で申し訳ないとおっしゃって、お土産をくださったのです。

なんと、ふつうではなかなかお目にかかれないような 霜降りの牛肉!

帰宅後、さっそく夕食で、いただくことに。それにしても、まあなんとまろやかで、とろけるようなおいしさだこと。

ほっぺがこぼれる、こぼれる。この世のものとはおもえない、お・い・し・さ。

あまりのおいしさに味覚がジュワーッときて、にわかに感動がわいてくる。心まで、ジィーンとくるような感動。

「・・・!?」

おやおやこれって、味覚のジュワーッが、心にジィーンと共鳴している?

でも、これがイヤな共鳴であるはずもなく。こんな心地よい共鳴なら、ずっと鳴り響かせておきたいもんですねぇ……。

Sさん、ごちそうさまでした!

【 今回の記事の執筆者 】
ピアノドクターChants

ピアノドクターChants(チャンツ)
(滋賀県米原市)
 鳴海さん



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