ピアノの寿命はどれくらいなの?~大切なピアノを長く使うには~

ピアノの寿命

本来の性能で気持ちよく弾ける年数の目安は30年。一般的なピアノの寿命はだいたい60年と言われます。これは、年数経過により木が痩せたり、ピンのネジ穴が緩んだりすると、調律ができなくなる、その年数がだいたい60年ということです。

とはいえ、ピアノの寿命は、使い方や環境に気をつけることで、ずいぶんと違ってきます。大切なピアノ、長く使いたいですよね?

この記事では、ピアノ調律師さんへの取材を通じて、ピアノの寿命やピアノの寿命をのばす方法などについて、教えていただきました。この記事があなたの参考になれば幸いです。

ピアノの寿命が縮まる原因は?

ピアノの森・調律工房

ピアノの森・調律工房
(埼玉県さいたま市浦和区)
 森さん

なんと言っても、温度、湿度管理に無頓着でいることです。これについて、極端な例を挙げてみます。例えば、病院や施設など、ずっと空調設備を稼働させているところは危険です。そういう場所は、ピアノにとって最も厳しい環境です。そういう環境だと、木が縮んで緩々になり、最悪はヒビが入ってしまいます。

調律ピンの後ろの木の板や、響板などに、ヒビが入ることがあるのです。こういった施設では、まだ30年くらいの比較的新しいピアノでも、ヒビが入っていることは実際に何度もありました。

ある病院のグランドピアノでしたが、チューニングピンのネジの緩みはまだありませんでしたが、響板にざっくりとヒビが入っていたことがありました。これは、湿度管理に気をつけなかったために起こったことでした。


最も怖いのは過乾燥によるピアノのダメージ

ピアノ環境で私が最も怖いと考えているのが、過乾燥によるピアノのダメージです。湿度による影響は、環境を整えれば直ります。でも、乾燥によるダメージは、直りにくいのです。

水分で膨らんだ木は、また元に戻ります。でも逆はできない。過乾燥によって痩せてしまった木は、元にはもどりにくいのです。

もちろん、湿気によるサビも怖いのですが、サビるのは部品だから、そこはまだ交換で対処できます。でも、木は交換するのがとてもたいへんになるか、もしくは交換できません。だから、調律師の適切な環境のアドバイスは、まずは一番大事だと思います。


床暖房には注意、冷房の風や、直射日光にあてないこと

まめたろうピアノ調律

まめたろうピアノ調律
(北海道岩見沢市)
 石川さん

やはり、温度、湿度の管理です。特に床暖房は、良くないと思います。あるお宅でまだ20年ほどのピアノですが、床暖房をしている部屋に置いてあります。そのピアノは、音を合わせてもすぐ狂ってしまいます。過乾燥は本当によくありませんので、そういった部屋には加湿器をつけていただいたいです。また、床暖房の部屋のピアノには、ゴムのインシュレーターが良いかもしれません。ゴムは、熱を通しにくいので。

後は基本的なことですが、冷房の風を直接あてないことです。風向きには、気をつけていただいたいですね。それから、同じように直射日光をあてないことです。ピアノも人間と同じように快適で過ごしやすい環境を好みます。


調律のしすぎもピアノの寿命を縮める原因に

谷口ピアノ調律事務所

谷口ピアノ調律事務所
(愛知県豊田市)
 谷口さん

まずは、調律をしすぎることです。例えば3ヶ月に1回などは、過度の調律になり、やりすぎです。それから、過演奏。1日8時間ピアノを弾くなどです。もしどうしてもそれくらい弾かざるを得ない状況であれば、譜読み、軽い確認などはデジタルピアノ、本気の演奏はピアノと使い分けをします。そうすると、ピアノの寿命は倍に伸びるでしょう。

後は、環境の問題です。窓やグランドピアノの屋根の開けっ放し。キッチンの脇に置くことによる油汚れ。日光の日晒し。ジュース、花瓶の水をこぼす。エアコンの水漏れなどです。純日本家屋の窓の近くや縁側は、結露が多くなりやすいので注意が必要です。また、ピアノが生活空間と隔離していて、空気が淀んでいると、痛みやすいと思います。

家でもずっと使ってないとカビ臭くなったり、実際にカビが発生したりします。新鮮な空気を入れないと、やはり良くないのです。それから、床暖房のあるお宅では過乾燥になり、全てのネジが緩み、響板が割れたり、板や木が反ってしまうことがあります。


ヤマハの高級グランドピアノがヒサンなことに

以前、依頼を受けて伺ったお宅には、ヤマハの高級グランドピアノであるs400bがありました。これは、すばらしいピアノで、ふつうのヤマハグランドピアノの値段の倍以上します。

オーナーさんも、とても大切にされていて、別宅のプレハブに置いていました。そこには、白色のソファーがあり、リスニングルームにもなっていました。しかし、ピアノの真上にエアコンがありました。ある時、そこから水漏れを起こしてしまったのです・・・。

その結果、アクション機構のセンターピンは全不良、ダンパーペダルも不良、弦も錆びてしまっていたので、オーナーさんは困り果てていました。

低料金で、できるだけということで、それによって何とか使えるようにはなりましたが、残念ながら本来の姿ではなくなってしまったのです。難しいとは思いますが、理想的には部屋の中心に置くのが良いと思います。こういう事故に直面するたびに、やはり環境がいちばん大事だと思い知らされます。


どうすれば、ピアノの寿命はのびるのか?

ピアノの森・調律工房

ピアノの森・調律工房
(埼玉県さいたま市浦和区)
 森さん

これも、やはり温度、湿度管理に尽きます。ふつうの日本家屋で、冬はストーブを使っているようなお宅でも、ピアノの状態が30年経ってもそれほど変わらないこともあります。

逆に20年でチューニングピンが緩んでいて、ダメージを受けていることもあります。これは、過乾燥によるもので、床暖房などが原因となっていることが多いです。

私の経験では、調律の回数によってチューニングピンのネジ穴が痛むというよりは、過乾燥による影響のほうが大きいと考えています。

調律は定期的に行ったほうが、弦が一定に保たれるので、ピンを戻す時に負荷がかかりにくいと思います。ホールに置かれているコンサートピアノが良い例です。常に一定の環境下に置かれている状態であり、30年以上経ても常に良い状態を保っています。このようなピアノは温度湿度を一定に保つ保管庫に保管されていて、ほぼコンサートのたびに調律されています。


ピアノの状態をたもつ究極の方法

谷口ピアノ調律事務所

谷口ピアノ調律事務所
(愛知県豊田市)
 谷口さん

オリジナルのコンデションを維持したいなら、もちろん環境なのですが、究極のお話をします。それは、調律をせず、温度と湿度変化をできるだけ少なくして、できれば真空状態にする。

高額な車でデッドストックにするには、袋に入れて真空状態にしますが、それと同じです。いっさいピアノに触ってはいけません。とは言え、こんなことは実際にはできないのですが(笑)

もっとも理想的な地点から各ユーザーさんにとってベストな環境を考えていただきたかったのです。2つのパターンでお話いたします。

1つは、もし弾いてる場合です。

弾いてるピアノを長持ちさせるには

新品の場合、音程が下がりやすいので、新品購入後、最低5年は毎年調律をします

調律の都度、内部掃除をして、調律師にメンテナンスを頼みます。除湿機と空気清浄機も置いて、温度と湿度を常に一定にします。

グランドの場合、手前の蓋はたまに開けるようにします。オールカバーはしても良いですが、たまに外して内部の空気の入れ替えは気をつけます。

アップライトは、上の屋根をたまに開けてあげます。アップライトは、ペダル付近の穴からネズミや虫が入り込むことがあります。できれば、使用が終わったらそこを塞ぐ方法を考えます。

2つ目は、弾いてない場合です

弾いてないピアノを長持ちさせるには

調律はしないか、回数はなるべく少ないほうが良いです。放置しておけばいいのです。

ただし、調律師に頼んで、内部のチェックはたまに行い、必要であれば掃除などの対策を行うのも良いかもしれません。

バイオリンやギターなどは、長期間弾かない場合、弦を半音下げてボディと弦にストレスを少なくして寝かせておきますが、ピアノもそれと同じようにしたほうが良いと私は考えます。

グランドの場合、手前の蓋はたまに開けます。オールカバーはしても良いですが、たまに外して内部の空気の入れ替えは気をつけます。

アップライトは、上の屋根をたまに開けてあげます。アップライトは、ペダル付近の穴からネズミや虫が入り込むことがあります。そこを塞いでおきます。

私は調律をするかどうかよりも、置いている環境のほうが大事だと考えています。海辺の潮風、山間部でのムシの多さ、雪国の湿気など、これらの環境に対して対策を何もしないままだと、本当にピアノにとってダメージを与えます。

結論になりますが、私からピアノを長持ちさせる提案です

ピアノの調律が安定している場合は毎年の調律を辞めにして、2年に1回にします。その代わり、2年目には、調律と同時にタッチの調整をするといった具合に、調整を織り交ぜていきます。

あくまで一般的な使い方を想定してのものですが、要するに調整の比重を増やしたほうが良い、ということです。


ピアノの寿命は、担当する調律師さんによって変わる?

ピアノの森・調律工房

ピアノの森・調律工房
(埼玉県さいたま市浦和区)
 森さん

基本的には、それはないと思います。あるとすれば、調律に訪れた際に、その場でピアノ環境に対して適切なアドバイスができるかどうかだと思います。

例えば、この部屋は湿気が多いので、除湿機が必要、あるいは逆に過乾燥になりすぎるので、加湿器をおいたほうがいいとか。

ほとんどの調律師さんはそれを心がけているとは思いますが、時間がなくてそこまで手が回らなかったとか、床暖房があることに気づかなかったなどのミスも、人間ですからあり得ます。


調律師の調律の仕方によって、寿命が変わることもある

まめたろうピアノ調律

まめたろうピアノ調律
(北海道岩見沢市)
 石川さん

調律師の調律の仕方によって、寿命が変わることもあると思い知らされた体験があります。

簡単に言えば、チューニングハンマーの回し方がセオリーに反していて、良くないのです。チューニングハンマーを使ってチューニングピンを回して調律を行いますが、その時に適切でない回し方をしたり、力の入れ具合で、ピン後ろの木の板のネジ穴がつぶれてしまうのです。

調律学校では、ネジの回し方を、しっかり学校で習っているはずです。それに忠実であれば問題ないのですが、穴をこじ開けるように誤ったピンの回し方をする方もいる、ということです。それはもう、その調律師の悪いクセになってしまっている

これは、以前勤めていた会社で、実際に体験した話です。私があるお宅へ調律に伺った時、そのピアノは新品からまだ20年ほどしか経っていませんでした。

ふつうはいちばん良い状態の時のはずですが、なぜかチューニングピンが止まりにくい。実は、社内では、前々から○○さんの調律の後は、調律がやりにくいよね、という話がありました・・・。

1人のお客様に対して、いつも社内の同じ調律師が担当するわけではなく、別の社内調律師が担当することもありました。

その時のピアノも、その前に担当していたのは、社内のその○○さんだったのです。以前より、伺った先のピアノの仕上げ方は、社内の誰々さんぽいね、というのを感じたことがあります。

全体の感覚なのでうまく伝えられないのですが、音の作り方などの点でです。それで、調律のカード見て担当者を確認すると、当たった!なんてこともありました。その時は、調律や調整の仕方にも、個性がでるものだと思ったものです。


調律すればするほど痛む、調整はすればするほど長持ちする

谷口ピアノ調律事務所

谷口ピアノ調律事務所
(愛知県豊田市)
 谷口さん

長持ちという点では、個別の調律師に違いはないと思います。あるとすれば、掃除や錆取り(錆止め対策をするかどうか賛否両論ありますが)、調律師が調律料金内でタッチの調整をやるかどうか、といった点がもっとも重要だと思います。

調律はすればするほど痛む、という考え方があります。でも、調整は、すればするほど長持ちする。一見矛盾するようですが、私にとってはこの考え方は納得できます。

過度の調律のやり過ぎが良くないのは、チューニングピンが刺さっているピン板の穴が、回しすぎで緩んでしまうからです。また弦の屈折している所でストレスにより弦と鉄骨の支点(ベアリング)が傷んでしまうからでもあります。

調律の頻度もそうですが、内部の調整も寿命と大いに関係があるということです。

後は、整音、つまりハンマーを整形して音を整える作業をするかどうか。この提案をよくする調律師かどうかでも、変わってくるでしょう。整音はハンマーに針を刺したり、削ったりしながら適切な柔らかさにしていきますが、これをやればやるほど、良い音を維持できます。

でも、当然ハンマーの寿命はそれだけ短くなります。では、寿命を伸ばすために整音をしないほうが良いかというとそうでもなく、整音をせずにずっと硬いフェルトのハンマーで弦を叩いていると、こんどはボディー(鉄骨)と弦が痛みやすくなります。

ハンマーのフェルトも含めて、アクション機構の調整が悪いままのピアノは、過度な負荷がかかって、痛むのが早くなります。やはり、調整は重要です。

このような調整を積極的に行ったり提案するかどうかは、調律師それぞれで違います。それらをきちんと行えば、別料金になるのがふつうです。別料金であれば、タッチの調整などもきちんと依頼しないと、調整されないままにされるかもしれません。

以前、一回だけですが、お客様から依頼があって伺ったのですが、そのピアノのメンテンス状態の良さを見て、前担当者の調律師さんのピアノへの深い愛情を感じたことがありました。ですから、今後もその調律師さんにまかせればよいと思い、お客様にそう申し上げて、そのまま何もせずに帰ってきたことがありました。


ピアノの寿命をなくす|オーバーホールについて

ピアノの森・調律工房

ピアノの森・調律工房
(埼玉県さいたま市浦和区)
 森さん

オーバーホールも含めて修理すれば、ずっと使えるようにはなるとは思います。そう考えると、厳密には寿命はないとも言えます。60年をさらに倍近くに伸ばすと、100~110年。

ただ、それを所有する方に、そこまでの思い入れがあるかどうかですね。オーバーホールは手術のようなものです。人間でも高齢で手術となれば、そもそもできるかどうかも含めて、術後の問題もいろいろ起こりやすいと思います。

1回目のオーバーホールならまだしも、2回目のオーバーホールとなると、かなり問題があるとは思います。さきほどの調律ピンのネジ穴が緩む問題は、この場合もかなり大きな問題になります。


オーバーホールは、あまりお薦めはできない

まめたろうピアノ調律

まめたろうピアノ調律
(北海道岩見沢市)
 石川さん

古くなったピアノには、オーバーホールという選択肢もあります。ただ、中身を新しくして、それで元の響きが蘇るかどうかは、別の話だと思います。弦は元々オルゴールのような小さな音しかしません。

響板やボディーなど、その他の素材のおかげで音が大きくなり、個性が出てきます。

オーバーホールの場合、使う部品もオリジナルとは変わってしまう可能性もあるため、どこまで望み通りになるのかは、やってみないとわからないところがあります。

ロシアンルーレットのようにはずれた場合は死ぬといったことは、もちろんありませんが、一つの賭けのようなところはあります。

お値段的にも、本格的なオーバーホールだと、アップライトピアノが1台買えてしまうほどです。

私個人は、オーバーホールは、あまりお薦めはできない、といつもお客様には申し上げています。年数の目安を越えたピアノを良くしようと思われるなら、新しいピアノのほうが良いと考えています。


どうするかは、所有する方の考え方

谷口ピアノ調律事務所

谷口ピアノ調律事務所
(愛知県豊田市)
 谷口さん

私は、以前イタリアのナボリで、7年ほど調律に携わっていました。そこでは、100年以上のピアノを、本当にたくさん見たし、触ってきたのです。ほとんどミイラのようになってるものもありました。(笑)

それでも、取り繕ってなんとか音階にしました。そういう考え方でよければ、100年以上でも持つのです。現に1700年頃にピアノを発明したイタリアのクリストフォリのピアノだって、今だにまだ弾ける。(笑)

でも、ピアノの先生で、当初の性能を維持されたいというのであれば、20年ほどでダメになることもあります。何度も申し上げている通り、切れた弦の張り替えなどを行い、ピアノの欠点を理解して使用するなら、そこから100年でも使えます。

どうするかは、所有する方の考え方によって違ってきます。


まとめ|ピアノの寿命をのばすポイント

  1. ピアノの寿命には温度、湿度管理がとても大切
  2. 特に過乾燥によるピアノのダメージに注意
  3. 床暖房や冷房の風に注意、直射日光にあてない
  4. 良い音を求め過度に調律を行うと寿命が縮まる
  5. 新品購入後は5年くらいは調律をした方がよい、その後は調律の頻度を減らす選択も
  6. 使わないピアノは放置でよいが設置環境には注意、たまに空気の入れ替えを行う
  7. オーバーホールはオリジナルとは変わってしまう可能性がある、よく考えてから判断


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