ピアノ調律師も教材にしている、きれいな和音のお手本CDとは?
立川ピアノ調律技研
(神奈川県藤沢市本鵠沼)
立川さん
調律に伺ったとき、よくユーザーさんから聞かれることがあります。
それは、「静かにしていたほうがいいですか?」という質問です。
そのとき、わたしはもちろん、ぜひそうしていただけると助かりますとお答えします。
調律師が調律している音って、ユーザーさんにはただポ~ン、ポ~ンと聞こえるだけだと思います。
ですが、調律師の聞いている音は ポ~ンの陰に寄り添っている小さな音の波を聞いているのです。
わたしの調律の仕事観でいえば、調律師は「こうもり」のようなものです。
部屋の中でユーザーさんが音も無く近づいて来られたり、遠のいたりされてもすぐにわかります。それは音の波でわかるのです。
近づいて来た人には、音がぶつかり、波は圧縮され高い音となってもどってきます。一方で、遠のく人には、音の波は広く低い音となってかえってくる。
もちろん、多少うるさくてもド・レ・ミ・・・は作れます。
ですが 和音を本当にきれいに作るとなると、静かな環境が理想です。
ワンちゃんの吠える声はふだんは気になりませんが、調律に集中している時は、わたしにとってはちょっとやっかいな騒音にかんじてしまいます。
そんなわけで、わたしの場合、静かな環境がなによりのご馳走なのです。
そにしても、まずユーザーさん自身に、「きれいな和音」とはこんな感じだという音のイメージがないと、わたしの言っていることは神経過敏な調律師の単なる戯言、愚痴にすぎなくなります。
だって、ふつうのド・レ・ミ・・・以上の存在を知らなければ、その人にとって、そのふつう調律レベルが最高になっていますから。
しかし、じゃあ「きれいな和音」とはなんなんだと言われると、そのイメージを伝えるのは、これがなかなかむずかしい……。
それを言葉でつむいでみようとすると、なにやら意味のよくわからない文学表現のようになってしまいます。
和音の響きはもともとあいまいでとらえにくいせいか、「きれいな和音」を本当に理解しているユーザーさんも、意外と少ないと感じています。
「調律おわりました。どうぞ検音おねがいします。」
わたしはそう申し上げると、ユーザーさんは、なめらかなタッチでパラパラパラとスケールを弾きます。そして、バン、バン、バンと和音を鳴らし「まあ奇麗な音になったこと、嬉しいわ。」と喜んでくださいます。
ですが、できればここで、和音を最低でも3秒間ドーンと順番に鳴らすし、それをじっくり聴いていただきたいのです。そうやって聴くことで初めて、そのときの和音の本当の状態、響きを感じることができるからです。
そして、3秒間でも5秒間でもじっと耳を澄ませて響きを聞くことで、不思議なものでしだいに良い響きというのがわかってきます。
ただ、そうはいっても、「きれいな和音」のイメージがさっぱり浮かばないという方もいらっしゃるでしょう。あるいは、あなたは、「きれいな和音」ってなんだろう、もっと深く知りたいと、そんな強い欲求をもつ知的好奇心あふれる方かもしれません。
そんな方に、ぜひおすすめしたい良いCDがあります。
完璧な和音の響きがどういう音なのか。それについてのひとつの解が、ここにあります。
↓↓↓↓
ユニバーサル ミュージック クラシック (2005-06-22)
音の深く重たいサティー
聴いていただきたいのは、このCDの中の 3つのジムノペディ:第1番 、第2番、3番です。
この演奏の特徴は、普通の演奏の2倍位のスローテンポになっていることなんです。そのため、和音も聞き取りやすく、なにより調律が完璧です。
なにを隠そう、調律師であるわたくしの大切な教材のひとつなんです。
楽譜も500円程度で売っています。楽譜を見て、よく和音を感じ取りながら聴いてみてください。そして次に、あなたのピアノでその曲を演奏してみてください。
さて、そのとき、いったいあなたのピアノはどんな和音の響きを奏でてくれるでしょうか。
ところで、最近、わたしの運営するピアノ教室のピアノの調律を、ベートーヴェンが当時使用してたであろう古典調律に変えてみました。(今のピアノは、古典調律とは違って平均律という調律法です。)
1ヶ月様子をみましたが、残念ながら、生徒さんたちはだ~れも気がついてくれませんでした……。
このCDを生徒さんたちにも聞かせてあげれば、変化に気づく子が現れるかなぁ。
【 今回の記事の執筆者 】立川ピアノ調律技研
(神奈川県藤沢市本鵠沼)
立川さん
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