『目で見てわかる!ピアノの寿命を伸ばすための4つのポイント』

  2008年7月
ピアノ調律師  津山さん
100歳までピアノを弾こう! 100までピアノライフ (京都府)

せっかくのピアノですから、できるだけ長くつかいたいもの。そんなピアノおもいの人のために、ピアノの寿命を延ばす秘訣をお教えます。一般のユーザーでも、目で見てわかるよう、やさしく解説。マイ・ピアノを一生ものにと考えるユーザーは、必見!





「ウチのピアノ、あと何年くらい使えるでしょうか・・・?」


「ウチのピアノ、あと何年くらい使えるでしょうか・・・?」

屋号のせいか、このように聞かれることがよくあります。

”100歳までピアノを弾こう! 100までピアノライフ”

なにしろ、これが、わたしの屋号ですから。

そして、続けてこうおっしゃいます。

「せっかくピアノがあるので、新しく買うのはもったいない、とおもって・・・」

「わたしの母から譲ってもらった大切なピアノ。できれば、子供にも弾いてもらいたい。」

う~ん、お気持ちはとてもよくわかります。

最近の日本の経済事情もあり、ピアノのような高い買い物はそうそうできない。
それに、”モッタイナイ””MOTTAINAI”は、環境保全での世界のアイコトバ!モノを大切にするのは、21世紀の我々にとって今やエチケットですよね。

そして、お母さんから譲ってもらった愛着のあるピアノ。
そんな大切なピアノを、業者をとおして、海外に売り飛ばすのも忍びないです。


わかりました。
わたくし津山が、屋号の名にかけて一肌脱ぎましょう!

というわけで、今から、

《ピアノの寿命を伸ばすには、どうすればよいか?》

お話しますね。

一口に”寿命”といっても、ただピアノがあればいいってもんじゃありません。
ちゃんと鳴らないのに、家具みたいにデーンッと居座っているだけでは、たとえ100年もったとしても、たんなるお荷物です。

そう、”ピアノを長く、そして弾き心地よくつかっていくため”に、必要なことをお話します。

これから紹介するポイントは、皆さんが目で見て分かるものばかりですよ。
次回調律をするときに、ご自身の目で確かめてみて下さいね。

それでは、いきます。

 




ピアノ調律師 津山の
目で見てわかる!ピアノの寿命を伸ばすための4つのポイント



■ポイント1 弦のサビ取り


弦が錆びると、まず切れやすくなります。また、たとえ切れなくても、まっすぐな音が出なくなります。これを、「一本うなり」と調律師は呼びます。ユニゾン(2音以上の同じ音)が少しずれた時に出るうなりが、弦1本でも出てしまうからです。

弦が錆びる原因は、意外にも、調律をすることによるものが多いのです。調律師の指が、弦に触れてしまったりする。直接指で触れなくても、フェルトを弦にはさんだり工具をつかうとき、それらが弦に触れる。そういったことで、錆をもらってしまうのです。

チューニングピン(弦をまきつけているピン)から、錆が広がることもあります。チューニングピンは、調律の時、強い力がかかり傷もつきやすいので、そこから錆びることはよくあります。

調律前には、工具が使用される箇所の錆、および弦全体の錆びをチェックします。ひどいようなら、調律師に頼んで錆びをとってもらいましょう。

 

チューニングピン 右半分が磨き終わったもの
  




■ポイント2 ハンマー弦の合わせ


もし、ハンマーとハンマーの間隔がズレていると、そのいずれかは、弦にまっすぐ当たっていないということなり、音にも悪い影響が出ます。そのままにしておくと、常にハンマーに無理な力がかかってしまい、いずれはガタ(グラグラ)になって、強く弾いても強い音が出ないなどの支障が出ます。

ズレている場合、ハンマーの位置を正しくもどすわけですが、そのとき、今まで弦に当たっていた部分に弦溝がついています。その場合、その音の音色を他とそろえるために、ファイリングといって、そのハンマーを削って弦溝を取る作業が必要になります。ただし、ファイリングをしても音色が揃わない場合があります。(その場合、全体の音をそろえる整音が必要)

それから、新しいピアノの場合(弦溝がつく前の状態)、このようなハンマーと弦の当たり具合の問題は、特に重要です。上述した問題が出ないよう、最初にしっかりと合わせて調整しておきたいものです。

弦をたたくハンマーは、一番運動量の多い部品ですから、ピアノのパーツの中でも特に重要です。ハンマーとハンマーの間隔がそろっているか、確認してみましょう。

ハンマーの間隔が乱れている

ハンマーの間隔を正常に戻したもの


■ポイント3 キャプスタンボタン位置調整

キャプスタンボタン??? 耳慣れない用語ですね。
わかりにくいとおもいますので、動画での解説も用意しています。

<<<キャプスタンボタン位置調整についての動画解説>>>

キャプスタンボタンとは、鍵盤の奥についている直径1,5センチくらいの円柱状の部品です。

このキャプスタンボタンが、ウィッペンという部品を押し上げてアクションを動かすのです。このとき、ウィッペンからはみ出す形でおしあげると、ウィッペンに無理な力がかかり、ガタ(グラグラ)になってしまいます。

この場合、強く弾いても強い音が出ない状態になります。また、隣の部品に接触するほどガタ(グラグラ)になってしまうと、鍵盤が下がったまま上がってこないなどの支障が出ます。

キャプスタンボタンがまっすぐウィッペンを持ち上げているか、その位置をチェックしましょう。




■ポイント4 鍵盤の下の掃除


私は、防虫、防錆効果のある乾燥剤を入れるようおすすめしていますが、鍵盤の下まで効果が回らないのか、鍵盤の下のフェルトだけが虫に食われてしまうことがあります。

特に、鍵盤の下にほこりがたまっているときに多いのです。

鍵盤の下のフェルトが食われてしまうと、雑音が出てしまいます。それだけでなく、鍵盤上面の高さが、バラバラになってしまいます。また、鍵盤を押さえた時の深さも変わります。

こうなると、まるで、でこぼこ道を歩くような弾き具合です。

もしこのフェルトを交換して、上面や深さを調整すれば、せっかく合わせたアクションの調整もすべてやり直しです。
アクションの調整を一から行うと、かなりの時間と費用がかかってしまうのです・・・

調律の際は、調律師に鍵盤をはずしてもらい、鍵盤下にほこりがたまっていないかチェックしてみましょう。

 

鍵盤下の虫に食われかけているパンチング

鍵盤下掃除前

鍵盤下掃除後





以上、これらのポイント4つは、ユーザーの皆さんが、調律の時に目で見て判断できる内容です。

気づいた点があれば、調律師さんに錆び取り、調整、掃除をお願いしてみましょう。一度に全部の作業は無理かもしれませんので、そのときは次回でという相談もできるでしょう。

遠慮はいりませんよ。そのくらい熱心なユーザーさんのほうが、ピアノ調律師もやりがいが出るってもんです。





愛情が注がれ、世代を超えて受け継がれるピアノ。それは、世界にひとつだけのオンリーワン


わたしは、ピアノを100年使っていただくことを、心情にしています。
そして、わたし自身、100歳までピアノを弾こうと思っています。

じつは、車のナンバーも100です。(笑)

”100年休まずにチクタクチクタク・・・”
「おじいさんの古時計」、大好きな歌です。

とにかく、この100と言う年数を、すごく意識しているのです。

ピアノが親から子へ、そして孫まで弾き継がれる。そうやって、長く使えば使うほど愛着がわいてきます。愛情を注いで弾いてあげたピアノ。それは、そのピアノにしかだせない音色となり、豊かに鳴り響くことでしょう。そうなったとき、そのピアノは、世界にひとつだけのオンリーワンとなります。

いつかわたしに、100歳のピアノを調律させてください。
その日が本当にやってくるのを、今から楽しみにしています。