ピアノ調律のピッチ(基準音)は、440Hz?それとも442Hz?
ピアノ調律での、ピッチとは基準となる鍵盤中央の「ラ」の音の周波数を表します。調律時にピッチは、440Hzか442Hzのどちらかにあわせることが多いようです。
この記事では、ピッチの選び方や注意点について、色々なピアノ調律師さんに話を聞いてみました。何かしら参考になれば幸いです。
なぜ440Hzか442Hzで調律されるのか?
440Hzは国際会議で決定されたピッチです。それに対して、442Hzはコンサートホールなどで用いられるピッチです。
一般的には、このどちらかのピッチに調整されるケースがほとんどです。コンサートホールのピッチが少し高い理由は、ピッチが高い方が華やかに聞こえるから、とのこと。
ピッチ調整が重要となるのは、オーケストラなどの、他の楽器と合奏する時。なぜなら、合奏時にそれぞれの楽器のピッチがちゃんと合っていないと、良いアンサンブルにならないからです。
調律師さんに質問、ピアノ調律時のピッチは440Hz? それとも442Hz?
色々なピアノ調律師さんに、ピッチについてどう考えているのか、話を聞いてみました。
長期間調律されてないピアノは、断線を避ける為低めに調律しております
ピアノドクターChants(チャンツ)
(滋賀県米原市)
鳴海さん
基本的には、442ヘルツで合わせます。理由は、オーケストラなどでは442ヘルツが主流になっているからです。
但し、製造年が古い場合や、長期間調律をされていないピアノは、急激な弦の張力アップで、断線する事を避ける為、低めに調律しております。
ほとんどの現場が442Hz指定になっているので、家庭のピアノも442Hzに
松岡ピアノメディカルサービス
(群馬県前橋市住吉町)
松岡さん
特別に指定されない場合は442Hzで調律しています。
以前(もう20年以上前)は440Hzで調律していましたが、学校やホールの仕事が増えて来てからは、ほとんどの現場が442Hz指定になっているので、家庭のピアノもそれと同様にしています。
学校での合唱の練習で音取りするにも、自宅と学校のピッチが同じ方が良いと思いますので。
お客さまのご要望、好みに合わせます
ピアノ調律師 谷口歩美
(鹿児島県鹿児島市)
谷口さん
状況により、対応してます。お客さまのご要望、好みに合わせます。
ただ、お客さまに「どのピッチが良いかわからない」「おまかせで!」と言われたら442Hzで合わせることが多いです。
年数空きの調律の際も442Hzで合わせることが多いです。
お客さまよりピッチ指定があり、442Hzから440Hzに下げた事がありますが、音が暗くなったと言われたことがあるので、下げる時はその旨確認させてもらってから合わせています。
それ以外で判断する時は、ピアノ以外の楽器をされている場合、
- 「例えば吹奏楽をされているとお話があれば442Hzにしますか?」
- 「例えばバイオリンをされているとお話があれば443Hzにしますか?」
442Hzだと耳が疲れるとお話があれば、441Hz若しくは440Hzに下げてみますか? とご提案させていただいてます。
ピッチ変更より、他の調整、整音や整調に関心を持っていただきたい
ピアノの森・調律工房
(埼玉県さいたま市浦和区)
森さん
440ヘルツと442ヘルツの違い率直に申しましょう。「どちらでもいいと思う」これが正直な意見です。
では、440ヘルツと442ヘルツでどれだけピアノの音が変わるか。442ヘルツの方が、張力が高まるために響きが明るくなるように思いますが、個人的にはほとんど変わらないと思います。
以前、このようなことがありました。440ヘルツに合わせていたのですが、お客様から「先生のお宅のピアノの音の方が明るい、先生と同じ442ヘルツに合わせてほしい」と言われ、ピッチを測ったところ442ヘルツになっていたのです。2ヘルツの違いで音が劇的に変わると、お客様も思われていたのです。
気候変動で2ヘルツくらいはすぐに変わることもあると思っておかれたほうがいいでしょう。夏場はピッチが高めに、冬場は低めになる傾向があります。
音を劇的に変えたいのでしたら、まず音色の調整、つまり整音をすることです。2ヘルツや3ヘルツの違いではそれほど音色は変わりません。
ただ、このヘルツの違いが大きな問題になることがあります。他の楽器と合わせる時です。弦楽器や菅楽器は、最近では殆ど442ヘルツに合わされているために、これらの楽器と合わせる時は、ピアノは442ヘルツにしなければなりません。
ただ、弦楽器や管楽器はピアノと違ってすぐにピッチを変えられます。442ヘルツでないと響きに不都合が起こるとも思えません。
もともとは440ヘルツが1834年にドイツのシュトゥットガルトで定められ、戦後アメリカにおいて採用れたのですが、次第に442ヘルツに変わっていったと思います。それがなぜかはわかりません。
そこでとばっちりを受けた楽器があります。木琴や鉄琴などの打楽器です。これらの楽器は一回音を高くするために調律を変えてしまうと、元に戻せない現実があります。
最近ではオケの打楽器奏者が次第に442ヘルツに調律を変え始めていると、打楽器奏者のかたが嘆いておられるのを聞きました。
クラシックの世界では442ヘルツが主流になりつつありますが、ポピュラーの世界では440ヘルツがいまだに主流だと思います。それは、電子楽器の多くが440ヘルツに合わせられているからです。
440ヘルツのままでしたらこのような混乱は起きなかったにもかかわらず、なぜか442ヘルツが特にクラシックでは主流になりつつあります。
ピアノも10年前、20年前と比べると442ヘルツに合わせてあるピアノが多くなったように思います。
ピアノの構造的には、2ヘルツの違いがピアノ全体の弦の張力に換算すると何十キロの違いになるので、440ヘルツの方がピアノにも負担はかからないと思います。
私個人の意見としては、もしもピッチ変更によって表現力の違いを期待されているのであれば、その分他の調整、整音や整調に関心を持っていただきたいと思います。
一回整音による音色の変化を知っていただければ、2ヘルツの違いなど取るに足らないものに思えてくるのでは、と私は思います。
まとめ|ピッチについての知識や注意点
- ピアノ調律でのピッチは、基準となる鍵盤中央の「ラ」の音の周波数
- ピアノではピッチを440Hzか442Hzのどちらかにするのが一般的
- 440Hzは国際会議で決定されたピッチ
- 442Hzはコンサートホールなどで用いられるピッチ
- ピッチを上げた分だけ、ピアノの弦に負担がかかる
- ピッチを変えると、ピッチを変えない時よりも、音が安定しにくい
- ピッチの変更が大きいと、別途費用が必要になることがある
- 古いピアノや、長期間調律をされていないピアノは、断線を避けるため低めに調律することも
- ピッチは気候変動で2Hzくらいはすぐに変わる
- 音を変えたいのなら、ピッチ変更より整音の方が効果的
ピアノ調律でピッチ(基音)はどのように合わせるべき? 20世紀初頭までは、例えばフランスでは435Hz、ドイツでは440Hz、イギリスでは452Hzといったように …