【ピアノの修理】 弾き心地に影響する最も大切な鍵盤調整
なんだか弾き心地がよくない、弾きにくい。そんなピアノには、鍵盤調整が必要かもしれません。この記事では、ピアノの弾き心地に大きくかかわる「鍵盤調整」について、調律師さんが写真入りでわかりやすく解説します。
【ピアノの修理】 弾き心地に影響する最も大切な鍵盤調整
久保ピアノ調律事務所
(埼玉県三郷市)
久保さん
ピアノの修理の中でも、そんな弾き心地にかかわる「鍵盤調整」について、写真つきでご説明したいとおもっています。
アップライト・グランドピアノの修理で一口に「鍵盤調整」といっても、調律師から見ればほんとうにいろいろあります。
今回は、その中でももっとも重要な「鍵盤の高低調整」についてです。
なぜ重要かというと、この調整が鍵盤調整の出発点であり、この調整をせずに他の鍵盤調整をすることは意味をなさないからです。
もし、鍵盤の調整がズレてしまっているとすれば、変な鍵盤の状態でいっしょうけんめいピアノの練習をすることになります。
すると、ズレた鍵盤のせいで「変な弾き方のクセ」を、知らず知らずのうちに身につけてしまうかもしれません。
そうなってはたいへんです。
そうなる前に、ピアノの鍵盤の構造とよくある鍵盤のズレを引き起こすケース(事例)について、私の経験からお伝えできればとおもっています。
ピアノを弾いていて、以下のように感じたら要注意
- 弾き具合がさっぱりしない
- なんかモコモコする
- トリルが弾にくい
- 以前と鍵盤のタッチが違ってきた
- 他のピアノとタッチが違う
通常、鍵盤の高さと沈む深さの基準は、以下のものとされています。
高さ: 棚板より白鍵上面まで約64㎜
沈む深さ: 基準は約10㎜
この基準から大きくずれてしまいますと、不具合を感じてしまうんですね。
鍵盤の高さが高すぎると、鍵盤を押したときに何か指先にひっかかる感じになります。(重たい感じになる場合もあります)
逆に、鍵盤の高さが低すぎると、鍵盤を押したときにフワフワした感じで演奏に表現がつけにくくなります。(軽い感じになる場合もあります)
とにかく、高さの調整がうまくいっていないと、こういったような症状があらわれます。
鍵盤の高低調整とは、どんなものなのか
鍵盤の調整は直接手に触れてタッチを感じ取る場所なので、とても重要です。
以下の写真は、定規をあてて鍵盤の高さを一直線の高さでみて、不ぞろいの箇所をチェックしているところです。
調律師は、この定規を「ならし定規」といい、鍵盤の高さをそろえるために使います。あなたも、実際にピアノの鍵盤を横から眺めてみると、わかるとおもいます。鍵盤が、きれいにそろっていますか?
ならし定規を鍵盤の上に乗せると鍵盤の高さがバラバラ
この鍵盤の高低調整が精密に行われないと、後のピアノ内部調整は全てがムダになる。だから、特にこの調整が重要なのです。
鍵盤の高さを基準に、鍵盤の深さも決まります。
具体的な調整法については、あとで詳しくお話しますが、どちらの調整も鍵盤の下に、紙パンチングを入れて調整をします。調整精度は、0.03㎜の紙まで使用するような、とても繊細な作業です。
鍵盤の上下の動きは、おおよそ10㎜です。
こういった調整が不十分だと、すべての鍵盤が同じ音量で発音することができません。
鍵盤の高さや鍵盤の沈む深さが変わる理由と調整法
では、次にどうして鍵盤の高さや鍵盤の沈む深さが変わってしまうのか、それについてお話します。
これには、さまざ原因があります。今回はよくあるケースとして、2つをご紹介したいとおもいます。
【ケース1】
年を重ねるうちに、棚板がピアノアクションの重さや重力で下がってくる場合がある。
症状 → 鍵盤の高さが低くなってくる
調整は → 鍵盤を高くする調整が必要。同時に鍵盤の沈む深さは浅くする調整が必要。(鍵盤の高さが高くなると、その分だけ鍵盤の沈む深さは深くなってしまうため)
【ケース2】
年を重ねるうちに、鍵盤奥下部にあるクッション(バックレールクロス/緑色)が2㎜~3㎜へこんでしまう。
症状 → 鍵盤が高くなってしまう
調整は → 鍵盤を低くする調整が必要。同時に鍵盤の沈む深さは深くする調整が必要。(鍵盤の高さが低くなれば、鍵盤の沈む深さは浅くなってしまうため)あるいはクロスを新しいものへ張替え。
鍵盤の高さの調整
鍵盤の高さの調整は、鍵盤中央に位置するバランス部分のパンチングペーパーで入れたり抜いたりして調整します。
鍵盤の高さの調整
鍵盤の沈む深さの調整
鍵盤の沈む深さの調整は、皆さんが鍵盤を押す部分の下にあるパンチングペーパーで入れたり抜いたりして調整します。
鍵盤の沈む深さを調整
変化の目安は3年~5年で、一度チェックが必要、必要なら修理も
鍵盤の高さや深さが変わってしまうまでの経年変化は、ピアノ(メーカーや機種)によってさまざまです。
でも、3年~5年一区切りを目安として、一度チェックしてみるのがよいとおもいます。
比較的棚板に厚さがあるピアノは大丈夫です。
なかには棚板が薄い合板一枚のものなどがありますので、調律などの機会があればその点もチェックされるとよろしいかなとおもいます。
グランドピアノの場合は、各メーカー共通してピアノアクションと鍵盤の重さで、棚板がたるんで鍵盤のタッチが硬くなってきます。
アップライトピアノ、グランドピアノともに、確実に経年変化してしまうのは、先に説明した鍵盤奥下部のバックレールクロス(緑のクロス)です。これも、調律の機会などに、へこみを確認してみてください。
こういった鍵盤調整料金などは調律師さん、楽器店によっていろいろです。微量な調整でしたら、いつもの調律師さんの厚意で無料にしてくれることもあります。
また、部分的調整では間に合わず、88鍵盤すべての調整で半日ちかく作業がかかる場合は20,000円~30,000円ほどかかる場合もあります。
ちなみに、わたくし久保調律事務所の場合です。鍵盤調整は微量な調整でしたら無料サービスとなっています。大きな作業を伴う場合は20,000円が上限価格(13/8月現在)です。
わたくし自身ももちろんそうですが、誠意ある調律師の多くは、ピアノユーザーの方にじっくり相談することもなく、いきなり中・大規模な修理をすすめたり、強引に修理を行なってしまうことはありません。
もし、そういうピアノ販売店やピアノ業者であれば、悪徳業者の可能性が高いので、注意が必要です。
修理のご提案の一例
参考までですが、わたくしの修理のご提案の一例です。
調律の際、「このピアノ、調整したらもっと良くなる可能性がある」と判断したら、まず鍵盤のサンプルを1つつくってみます。
ご相談しながら、さらに中音部の1オクターブ分のサンプルを作ってご提案し、ユーザーの方に見ていただく場合があります。
ここで「今までと違って弾きやすい」とおっしゃっていただき、なおかつ「これで調整お願いします」とGOサインがでた段階で、全鍵の調整にはいります。
このように、多くの良心的な調律師は、ユーザーの方との対話と納得を重視しているとおもいます。
さて、ここまでピアノの修理、とりわけ鍵盤の重要な高低の調整についてお話してきました。
ピアノの細かい構造の話もあって、ここまでついてくるのは少したいへんだったとおもいます。
でも、あなたの大切なピアノを快適な弾き心地で弾くためには、とても大切な知識です。
そして、このくらいの知識をもっていただければ、少なくとも鍵盤調整にかんしては、先に少しふれた悪徳業者にだまされることもないでしょう。
もし、日ごろからピアノタッチの不調を感じていらっしゃるなら、ここでの知識をふまえて、積極的に調律師や修理業者に相談してみてください。
腕のたつ良心的なピアノ調律師、ピアノ修理業者であれば、あなたの知識レベルの高さと思いに応えて、きっと良い仕事をしてくれるとおもいます。
【 今回の記事の執筆者 】
久保ピアノ調律事務所
(埼玉県三郷市)
久保さん
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