ピアノ調律のとき、冷房や暖房をつけるのはよいの?それとも悪いの?
ピアノフォルテ(宮瀬)
(愛知県名古屋市)
宮瀬さん
ピアノ調律にうかがったとき、冬の寒い日であれば、暖房をつけてくださるお客様がいらっしゃいます。
わたしのことを気遣ってくださって。そんなときは、いつもとてもありがたいとおもいます。
でも、そのお心遣いが、ピアノ調律の作業にとっては必ずしもよいとは限らない……。
きょうは、そんなケースについてお話したいとおもいます。
何年か前にお伺いしたお客様宅でのことです。雪がシンシンと降る、それはそれは寒い日でした。
宮瀬「こんにちは!調律にうかがいました。よろしくお願いします。」
と、寒さをふきとばすように元気なご挨拶をし、いざピアノのもとへ。
ピアノはお母様が以前使用され、現在は小学校1年生のお嬢さんがつかっているY社製のアップライト。親から子へと、大切に受け継がれていると感じました。
二階に置かれていて、部屋は6畳ほどの洋間。暖房はエアコンです。
お母様は、いつも夕刻まで仕事に出ており、この日も調律予定時間の15分程前に仕事から帰宅されたところでした。
お母様「今帰宅して、暖房スイッチ入れたところです。寒いですけどすいません・・・」
宮瀬「かまいません」
と返事をして、早速調律をはじめました。
はじめに、音叉(基準の音を出す工具)でピアノの基準音(442Hz)をあわせ、その基準音をもとに他の音を順次合わせていきます。
ちなみに、音叉そのもののピッチ(音の高さ)も、周りの温度で変わります。ですから、冬は使用前に体温で暖めてから使用するんですよ。
大きな狂いもなく、順調に作業はすすんでいきました。
冷えきっていた部屋も次第にエアコンで温まり、快適な状況となりました。
ところが……。
調律が半分ほど進んだところで、低音部と中音部で調律後の確認してみます。
一瞬、耳を疑いました。
しっかり合わせたはずなのに、あってないぃーーっ!
基準音を確認すると、なんと!ピッチが442Hzから441Hzに下がってしまっているのです。
なぜか。
もうお気づきですね。そうです、室温の変化です。
暖房によって弦の緊張度が緩んだだめ、ピッチ(音の高さ)が作業中に下がってしまったのです。
宮瀬「どうしよう? もう半分くらいまで調律したのに……。」
調律時にできる限りベストな状態にしなければ、その後は狂う一方です。
どんな状況にあっても、そのときにベストをつくすのが、ピアノ調律師としての責任とありかたではないのか。
そんなおもいが、頭をよぎりました。
このまま続けるわけにはいかない。そう強くおもいました。
よく考えてみれば、今ならお嬢さんがいつも練習される室温に近いはず。
焦る気持ちを抑えつつ、基準音を取り直し、一からやり直すことに。
時間はその分かかりましたが、最後まで無事行うことができました。
やり終えたあとは、とても爽快。やってよかったとおもいました。
ピアノは、とても繊細な楽器で、各部品が温度に影響を受けやすいのです。
ストーブのように移動可能な暖房器具の場合、足元が寒いからといって、ピアノに近いところからピアノにむかって暖房される方がいます。
すると、暖房がよくあたる場所とあまりあたらない場所とで温度差が生じ、温度の変化を受けたところとあまり受けないところとで、音の変化のしかたに違いがでます。
そうなると、全体としてきれいな響きになりません。(ただし、暖房を切れば元にもどります)
そんなことですから、今お話してきたようなケースは困難を極めることになります。
環境によってピアノの状態が刻々と変化する中で調律するのは、まるで動いている的に矢を射るようなものなんです。
音が変化する原因には、いろいろあります。
打鍵(ピアノを弾く力)の強さ、弦を巻きとめているピンのかたさ、ピアノの新しさ、ピアノへの振動(運搬等)の有無、湿度、ピアノの設計・材質。
それから、もちろん、人間の感じ方によるところもあります。
しかし、いちばん大きく影響するのが、この「温度」なのです。
音に敏感な方やそのようなお子さんをおもちの方は、よく覚えておいてくださいね。
では、夏や冬など冷暖房器具を使い、外の環境とピアノを弾く室内の温度差が激しい時期に、より良い調律を受けるにはどうすればよいのか。
それは、調律の際、いつも演奏する時と同じような室温を保つこと。
そして、ピアノがその室温になじんだころに調律作業を行うことです。
これが、理想です。
調律師が到着する前、少なくとも2時間前にはそういった状態をつくっていただくのがよいのです。
冬場であれば、エアコンは、温風がピアノに直接かからないよう風向を調節します。
石油ファンヒーターやガスストーブなら、ピアノからは少し離れたところで使用しましょう。
夏場は、エアコンが主流となりますが、冬場同様、冷風がピアノに直接かからないよう、注意してください。
ただし、小さな電気カーペットや扇風機、赤外線ヒーターなどは、部屋全体への影響力が少ないため、ピアノへの影響もほとんどありません。
たとえば、ピアノが置いてある部屋がいつもすごく寒いのなら、その室温のままで調律をするのがよい、となります。
たとえ、調律師の顔が青白くなって凍え死にそうになっていても、です。 (キッパリ!)
気遣いは、無用ですよ。
え、わたしですか?
えぇ、もちろん耐えてみせますとも!
あぁ、あのぅ……。
ただ、せめて足元に小さな赤外線ヒーターだけでもあれば……。
それがかなわぬなら、ネコちゃん好きのわたしです、ネコちゃんを足元の暖房代わりにお貸しください。
それだけで、心も体もホッカホカ!
ピアノフォルテ(宮瀬)
(愛知県名古屋市)
宮瀬さん
ピアノ調律の頻度ホントの話、定期的な調律の必要性は?
調律は年に1回が一般的です。ただ、この年1回という頻度はホントに正しいのでしょうか? …