ピアノだって、家族の一員

西本ピアノ調律

西本ピアノ調律
(兵庫県丹波市)
 西本さん

アニメの「アンパンマン」ご存知ですね?

「アンパン」だけど大活躍する「アンパンマン」。
「カレーパン」なのに戦うカレーパンマン。
「バイキン」がなぜか戦うバイキンマン。

どれも、もともとは単なるモノにすぎないのに、生き生きと、まるで人間のように描かれています。

なんでいきなりアンパンマンの話かというと、この世界に入って30年弱になりますが、私には、ピアノを1人の人格のようにおもっているところがあります。


先日、あるお宅へ初めていきました。

中1の息子さん、小学2年生のお嬢ちゃん、ご主人様と奥様の4人家族ですが、みんな音楽が大好き。

奥様は学生の頃、フュージョンバンドに参加したり、弾き語りをしてたほどです。

この日はちょうど土曜日で、ご主人様もいました。

私がピアノ内部の掃除をしておりましたら、何やらご主人も、ジーッとご覧になっている。

西本「ご主人さんも、メーカーの部分をピカピカに磨いてみましょうかー!」って、お誘いいたしました。

ご主人「俺にもできるかなー!」って言いながら、けっこう楽しそうにお手伝いいただきました。

ご主人様の熱心なピアノ磨きのお陰で、ピカピカの「K.KAWAI」文字がくっきりと浮かび上がり、とっても美しくなりました。

そのとき、奥様へ私から一言。

西本「奥さん、今夜の晩ご飯は、ご主人さんに一品多めにお刺身でもー!!」

ご主人と奥様が顔を見合わせて笑ってくれて、その場は和やかな雰囲気に。

調律作業終了後に、私の下手な映画音楽“ラストコンサート”をご披露 ^_^;

続いて、お嬢様の“ネコ踏んじゃった”
引き続き、奥様の“貴婦人の乗馬”

それを聴きながら、私はコーヒーとクッキーをいただき一言

西本「何だかこの光景と似たコマーシャルありましたねっ!」

皆さん大爆笑!

整調もままならない状態で、とても苦労したピアノでした。

でも、ピアノをとりかこんだ皆さんの楽しそうな笑顔で、疲れはすべて吹っ飛んだ、いい1日でした。

このお宅は4人家族です。でも、私にとってはピアノも入れて5人家族なんです。

笑われるかもしれませんが、ピアノも家族の一員だと私は思っています。

こんなことをいうと、私のことを”変な人”と思う人もいるかもしれません。

いえいえ、世の中甘く見ちゃいけません。

上には上がいるもんです、ハイ!

このまま私が変なピアノ調律師にされてしまっては仕事上困るので、私のゆかいな知人たちに、私のことをフォローしてもらうとしましょう。


かなりご年配の方で、あるピアノ講師さん(女性)

その先生は、レッスン室に、80年ほど前のグランドピアノを今も使用しています。

弾く前には、ピアノに向かい必ず合掌し、一礼してから、鍵盤蓋を開けてレッスンの開始です。

レッスンが終了すればまた合掌、一礼。

そして静かにゆっくりと蓋をしめる。

この先生の一連の行動を、皆さんはどんな風に思われるでしょう?

私は、「武道の精神」をかいま見る思いでした。


バイクをこよなく愛す大学生さん(男性)

彼は高校3年生の文化祭で、ピアノを弾かされた(嫌々)ことがきっかけで、今も続けています。

もちろん、今はピアノ大好き!元気な学生さんです。

ピアノ暦3年の彼は、バイクもピアノも全てにおいて、自分の宝物として大切に扱います。

家に帰るとバイクのハンドルを「トントンッ!」と叩き「明日も元気でねっ!」の一言。

夕食後にいつも1時間ほどピアノを弾き、終われば「トントンッ!」とピアノを叩いて「じゃっ!また明日ねっ」の一言。


有名なあるピアノ調律師さん

演奏会の朝、ピアノに向かって一人ブツブツつぶやくのです。(実は私もそうですがー!)

静かな舞台上で、

「今日は調子はどうだい?今夜のプログラムはプロコだぞー!」

※「プロコ」: 作曲家 セルゲイ・プロコフィエフ

なんて具合で……。

他の人がこの場にいたら、きっと、見てみぬふりをするでしょう……。


んー、他にもまだまだこんなゆかいな人たちはたくさんいますが、言い出すときりがありません。

あとはまた別の機会にでも。

それにしても、こうやってゆかいな知人のみなさんをご紹介していると、私が”ふつうの人”におもえてくるから不思議です(笑)

黒くって、でっかくって、重くって、家の中ではかなりの存在感のあるピアノ。

でもその前に座り、そーっと蓋を開けた瞬間からもう、ステキな時間が流れだしてゆく。

やはりピアノはモノではなく、大切なパートナーとおもいたいですね。

ヨーロッパのように熟成しきれない我が国。

使い捨て文化が長かったせいでしょうか、教育に至るまで、続けるためのモチベーションが持続できなくなったように思います。

日本人はもっともっと世界に誇れるいいものを持っていたはず。

ピアノに限らずもっと人やモノを大切にしたいもの。

【 今回の記事の執筆者 】
西本ピアノ調律

西本ピアノ調律
(兵庫県丹波市)
 西本さん



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