もしも素人が3ヶ月だけピアノ調律を習ったら・・・ 自分でできる?

もしも素人が3ヶ月だけピアノ調律を習ったとしたら・・・、果たして自分で調律をすることができるようになるのでしょうか。もしできるとしたら、どこまで?それとも、そんなことは、やはり無理なのでしょうか。その点について、現役の人気調律師さんに直撃インタビューしました。


もしも素人が3ヶ月だけピアノ調律を

習ったら・・・ 自分でできる?










アマチュア向けに、3ヶ月でピアノ調律を指導するサービスがあるようです。趣味でピアノ調律をしてみたい、音楽家で自分のピアノを調律したい、あるいはシニアの方々が対象のようです。

わたしたちピアノ所有者やピアノ愛好家にとっては、とても気になりますね。もし三ヶ月で本当にピアノ調律をマスターできればすばらしいことだからです。しかし一方で、いったい3ヶ月でどれほどのことが学べるのか疑問も湧いてきます。

3ヶ月で、果たして自分で調律をすることができるようになるのでしょうか。もしできるとしたら、どこまでなのか。今回は、これらの疑問を、現役の人気調律師さん方にインタビューでぶつけてみました。






3ヶ月で、素人は調律がどの程度身につくものなのか

まめたろうピアノ調律
 (北海道岩見沢市) 石川さん談

石川: -----


すべては難しいですね。一連の流れを覚える期間が3ヶ月。こう捉えるのがいいのかなと感じました。その流れは、ざっとこんな感じです。

・部品の名称を覚える
・ピアノの開け方を覚える
・ピアノ専用のチューナーを使って、ハンマー(音を合わせるための道具)の操作の仕方を覚える、それと同時に音の聞き方を覚えていく→ 調律
・一通りの調整方法を学ぶ→ 整調

私が通った調律学校は、1年間のカリキュラムでした。4月から7月までで、こういった一通りの流れを勉強しました。夏休みに実家にもどり、そこで自分のピアノを初めて調律した時は感動しました。ただ、今では考えられない位時間がかかりました‥精度も良くなかったです。(汗)8月以降、卒業までの半年間は、何台も調律を経験していきます。




ピアノの森・調律工房  (埼玉県さいたま市浦和区) 森さん談

森: ----- 


3ヶ月でプロの調律師が行うような調律ができるかどうかと聞かれれば、それは難しいと思います。調律学校によっては、一年で学ぶところもあれば、二年かけてじっくり学ぶところもあります。そのあたりが、基礎技術の習得期間として目安になっているように思います。

ただ、3ヶ月で何ができるかと問われれば、それに答えることはできます。私が思うに、全体の方向性が見えてくるのが、およそ3ヶ月ではないでしょうか。三ヶ月じっくり勉強すれば、今後どのようにスキルを上げていけばよいか、その方向性を自分で見極めるレベルになるということです。3ヶ月で森という全体像を見るスキルを身につけ、今後は木という細部をよく見ながら、それに挑んでいくわけです。

ピアノの調律は200本以上の弦を調律するという大変根気のいる作業ですが、作業内容で分類するとこのようになります。

1:ユニゾンの調律
2:割り振りの調律
3:オクターブの調律

基本は、これら3つの作業内容だけになります。

まず1)の<ユニゾンの調律>についてですが、ピアノの弦は一つの音に主に3本の弦が張られています。それら3本の弦が丁度同じ音の高さになるように調律しなければなりません。それを行うのがこれです。3本の弦がずれていると、一つの音がポーンと伸びのある音で鳴ってくれません。

次に、2)の<割り振りの調律>ですが、ピアノの真ん中付近で*オクターブ12個の音を作る作業です。現在は*12平均律という調弦手法を用いますが、全体の根幹となるオクターブ12個の音を調律します。

※オクターブ(例えば「ド」から音階を鳴らしたとき、1つ高い「ド」の音程までが1オクターブ。)
※12平均律(音の間隔の割り振りで、1オクターヴを12等分する方法)

3)の<*オクターブの調律>ですが、2)でつくったオクターブ内12個の音を元に、1オクターブ上下、2オクターブ上下、3オクターブ上下、と、オクターブでピアノ全体に広げていきます。

※オクターブの調律(調律でいうオクターブの調律は、例えば「ド」と一つ高い「ド」を同時に鳴らして合わせるような作業を指す)


これら3つの作業内容のポイントさえつかんでいれば、あとはある程度自分で練習して調律していくこともできると思います。
こういった全体の方向性が見えるまでに、がんばれば3ヶ月で可能かもしれません。




3ヶ月学んだ後、実際にユーザーが得られるメリットは?

まめたろうピアノ調律  (北海道岩見沢市) 石川さん談

石川: -----


良い面について、私個人が調律の学校を卒業してから感じたことを挙げてみます。


①ピアノ・音楽の関心が深まる

調律の際は、音の細部を聞き分けます。そのためピアノの音の聴き方が調律を学ぶ前と変わるので、普段耳にするピアノの音を気にして聴くことができるようになります。狂っている音もわかるためガッカリすることもありますが・・・。映画・ドラマでピアノの演奏が出てくる際、綺麗に調律されていると、作品の作り手が細かいところまでこだわっているのがわかり、少し違った見方ができます。

それから、ピアノの内部と部品の動きを想像しながら演奏することができて楽しくなります。私自身、調律の学校に入学するまで、一度もピアノの内部を見たことがなく、音は鍵盤の下から出ているものだと思っていました・・・。実際には前から出ているとわかり、衝撃的でした。ピアノの中から音が出てくるイメージが大きく変わったのです。

②ピアノ調律・管理の重要性がわかる

音を安定させる苦労がわかるので、ピアノをより良い状態に保つためにこまめなメンテナンスが必要だと気づかされます。湿度・温度ですぐに音が変わることを実感できるので、ピアノを置く環境の大切さがわかります。以前、調律の最中に、暑いだろうと気遣っていただき、お客様が窓を開けてくれたことがありました。途中から雨が降り出し、ピアノの音にも大きな変化が・・・。合わせたばかりの音が狂っていたのです。慌てて窓を閉め、再度やり直し。湿度・温度変化に弱いとは、こういうことなんだ!と改めて理解できた瞬間でした。

③調律作業の大変さ(専門的な知識と技術が必要だということ)がわかる

調律作業は普段の生活の中では体験しないことなので、知識が無いと、何をしているのか、どれくらいの労力が必要かわかりにくいのです。

④軽微な修理・調律ができるようになる

ピアノ内部に落としたものを拾いたい、一音だけの狂いを直したいなど、ピアノを開けないとできない作業ができるようになります。



反対に陥りやすいデメリットは?

まめたろうピアノ調律  (北海道岩見沢市) 石川さん談

石川: -----


悪い面もあります。

・技術が未熟なまま手を加えることにより、ピアノに不具合を引き起こしてしまう危険


以前、我流で調律をなさっている方のお宅に伺って修理をした時に、困ったことです。
ご自分で直そうと修理に取り組んでいるうちに、ピアノを元の状態に戻せなくなりました。手を加え過ぎて取り返しのつかないことになってしまったのです。

その方は、ピアノが大好きで、自分でピアノの中を開けて修理をするのだと、楽しそうにお話してくれます。ところがある日、ピアノの調子が悪いと連絡をいただきかけつけると、すでにピアノの外装は開いていました。ハンマーがグラグラするので、ひとまず自分で修理したが、まだ不十分だからなんとかして欲しい、とのこと。ハンマーを見てみると、なんとハンマーの付け根をガムテープでぐるぐる巻きにしてあるではありませんか!!
残念ながら、これでは、ハンマーのグラグラは直りません‥ガムテープを剥がすのに大変苦労しました。





3ヶ月の短期と1年、2年の長期で学ぶこととの違いは?

まめたろうピアノ調律 (北海道岩見沢市) 石川さん談

石川: -----


さきほど挙げた良い面のうち、湿度・温度で音が変わるということに気付いたのは、私の場合、卒業後に現場に出てからでした。

学校に通う間は、湿度・温度を気にする余裕はありませんでしたので、3ヶ月ではなおさら難しいのかなと思います。
また、音を瞬時に聞き分けられるようになるまで精度が上がったと感じたのは、現場に出てから1年後でした。そして、ピアノに不具合が出た際に、どこの箇所がどのようにおかしいのかを判断するのも、経験値が必要です。

要するに、短期と長期の学びの違いは、技術の精度、熟練度、それから現場での問題解決力のあるなしに現れてくると思います。




ピアノ、そして調律へのさらなる興味へのきっかけ

まめたろうピアノ調律  (北海道岩見沢市) 石川さん談

石川: -----


ピアノの中を見てみたい、自分で調律をしてみたい、とお客様に思っていただけるのは、それだけピアノに興味があるということですから、調律師にとっては大変嬉しいことです。

ただ、修理をやり過ぎてしまうと元には戻せなくなってしまうので、その判断は調律師にとっても難しいものです。ぜひ、調律師が伺った際に、たくさん質問してみてください。
例えば、ピアノの中に物を落としてしまった時、自分で取るにはどうしたら良いか?と尋ねたら、きっと丁寧に答えてくれると思います。調律をしかるべき場所でしっかり学ぶ前に、大切なピアノのことを気遣いながら、そのように少しずつ学んでいくこともできるとおもいます。



ピアノの森・調律工房  (埼玉県さいたま市浦和区) 森さん談

森: -----


英語をマスターすることを少し考えればよくわかりますが、とても3ヶ月でマスターすることはかなわないでしょう。もし英語教材などに過度な期待をすれば、すぐに挫折するのは目に見えています。同じように、ピアノ調律も3ヶ月ですべて完璧にマスターできるなどとは思わない方がよいでしょう。けっしてもったいぶるわけではありませんが、調律はひじょうに奥が深く、私自身も今だにスキルをさらに向上させるべく、日々研鑽を積んでいます。

3ヶ月でピアノの魅力、調律の魅力を知る。そのことをきっかけに、今後さらなるスキルアップをしていく。このように考えるのが、自然で無理のない学びになるのではと思います。


 


ピアノ調律.net 編集部









<<前の記事 次の記事>>
バックナンバー一覧


メルマガ登録・解除 ID: 0000236488
人気調律師達がやさしく語る♪ピアノと調律に役立つ話
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ

---------------------------------------------------------------------




■調律師への質問

ピアノや調律にかんして疑問・質問があれば、ぜひピアノ調律.netの登録調律師に質問してみてください。
読者のみなさんに参考になるご質問に関しては、調律師より回答し、メルマガ上で公開いたします。

具体的なご質問、どしどし、お寄せくださいませ。
お待ちしております。
質問・疑問はこちらのフォームから。


■執筆者への感想・メッセージ

感想・メッセージは、こちらのフォームから。
「~さんのメルマガ記事感想」と題して、記事の執筆者名を明記してお送りください。
いただいた感想は必ず執筆者までお届けします。
ただし、執筆者からのご返信は確約できかねますので、その点、どうぞご了承ください。

執筆者も、感想を楽しみにしていますので、どしどしお待ちしております。

---------------------------------------------------------------------

■ 
□■ ピアノ調律師は、もう自分で選ぶ時代です。 

好みのピアノ調律師を選べるサイト

----------------------------------------------------------------------
メールマガジン 【人気調律師達がやさしく語る♪ピアノと調律に役立つ話】
----------------------------------------------------------------------
□ 発行・編集 : ピアノ調律.net 
□ ウェブサイト : 「ピアノ調律.net」 
□ 配信期間 : 不定期
□ 社内・友人など転送はご自由です。
□ ご意見・ご感想はこちらからお願い致します!

----------------------------------------------------------------------
     Copyright (c) 2008 ピアノ調律.net. All rights reserved. 
----------------------------------------------------------------------