Q&A: ピアノの寿命をあと10年伸ばすためのメンテナンスとは?

調律師さん方の視点から、この点についてどう思うのか聞いてみました。

 




Q
: Q&A: ピアノの寿命をあと10年伸ばすためのメンテナンスとは?


調律をしていれば、ピアノの寿命が延びる。ユーザーさんの中には、なんとなくそう思っている方もいらっしゃるようです。調律師さんによくお話を聞くと、それだけで十分と考えるのは大いなる誤解だということがわかります。せっかく購入した高価なピアノですから、末永く弾きたいものです。そこで、調律師さんにお伺いします。あと10年寿命を伸ばすためには、調律以外にどのようなことに気をつけ、またどういったメンテナンスを施していけばよいでしょうか?具体的におしえてください。



ピアノ調律.net 編集部



A:調律師さんの回答




通気の良い環境にする。




一番大切なことはピアノを設置した部屋の徹底した
温度・湿度管理が重要と思われます。
使われている材料に金属・フェルト・木材がありますが、
フェルトと木材は湿度に大変敏感なため、湿度をしっかり
管理することで、ピアノの状態が安定します。
また、金属は特に温度変化によって膨張・収縮を繰り返しますので、温度を一定に保つことでピアノの状態が安定します。
そのような環境の下で調律は勿論のこと、整調や整音も
合わせて、最低1年に1回は定期的に実施することにより、
ピアノは常に最良の状態で保たれ、長持ちすると思われます。

ピアノ調律アミュース 鈴木栄蔵





私も、調律にお伺いさせて頂くと、「ピアノの寿命は、どのくらいですか?」と聞かれる事が ございます。

お客様には、次の様に回答させて頂きます。
「ピアノ本体には、寿命は無いと思って下さい。現にショパンやベートーヴェンなどが使っていたピアノが、部品交換やメンテナンスする事で今も  ちゃんと音を出す事が出来ております。
ですから、寿命があるとすれば、各部品にはあります。
ハンマー、アクションや鍵盤の擦れる部分がすり減る事で寿命が来ます。また、害虫の発生により、フエルトが喰われる事も見られます。

また、弦や、鍵盤の軸になっている金属の部品は、錆の具合や、金属疲労によって寿命が来ます。」

この事から、寿命を長くするには、出来るだけ、錆が出ないように湿度管理をする。
摩擦部分の減りを少なくするには、定期的なアクション調整や、内部の清掃が大切と考えます。
ホコリが溜まれば湿気がたまりやすくなり害虫の発生も起きやすくなります。

要約すると、ピアノ内部を綺麗に保ち、定期的な調整、湿度管理をすれば、寿命は、かなり延びると考えます。

ピアノドクターChants 鳴海 賢次




「ピアノの寿命をあと10年伸ばすためのメンテナンスとは?


ピアノの寿命を延ばすには、ズバリ申しましょう、温度湿度の管理です。
ピアノの寿命はおおざっぱに見積もって大体60年くらいと言われています。その原因となるのが、経年変化による木の痩せです。木が経年にともない乾燥し、割れなどを引き起こします。特に深刻なのがチューニングピンの部分です。調律はチューニングピンを回して音の高さを調整する作業ですが、チューニングピンは木に刺さっているので、この部分の木が乾燥により痩せてくるとピンのトルクが緩くなって調律が狂いやすくなり、また最悪出来ない状態になります。
また、ピアノの音を鳴らす響板という板が乾燥によりヒビが入ると、雑音の原因になります。
その時にはオーバーホールという大きな修理が必要となります。その目安が大体60年といったところです。

しかし、しかしです、最近はその寿命を大きく縮めてしまう環境が増えてきました。冬場のエアコンの使用です。エアコンや床暖房の使用や機密性の高い部屋など、より乾燥する住宅環境になってきました。これはピアノにとってかなり過酷な環境なのです。
乾燥がピアノに良いと思って床暖房をどんどんたき、早くからピアノにダメージを与えてしまっているケースもありました。また、施設や病院の待合室など一日中エアコンを入れている場所に置かれているピアノは、特にダメージを受けやすいと言えます。
まだまだ一般的に乾燥よりも湿気がピアノに良くないと思われているケースも多いように思えます。確かに湿気も良くないのですが、乾燥による被害の方が後々高額な修理代がかかるケースがあります。特に木のダメージは、湿気の場合は乾燥させることにより元に戻るのですが、一回乾燥でダメージを与えてしまうと元に戻りません。
以前のように、冬場はストーブの上にやかんをのせるような暖めかたがピアノには一番よかったのですが、最近では殆どなくなりましたね。ある程度年数が経ったピアノが増えてきたことと最近のより乾燥する住宅環境の二つの状況により、よりピアノの寿命を早めやすい環境になりつつあるのは事実だと思います。
対策としては、加湿器の使用や、エアコンや床暖房以外の暖房方法を考えることだと思います。
どうして湿気がダメで乾燥は良いというイメージができあがってしまったか、それは夏場のヨーロッパの気候と比較するからだと思います。夏場の日本の高温多湿の気候が「日本=多湿」「欧州=乾燥」というイメージを作り上げてしまっているのでしょう。そして、ピアノは本来ヨーロッパのように乾燥した場所に置かれるものというイメージになってしまっているのでしょう。しかし、この多湿は夏場の3ヶ月間だけのことですし、日本の太平洋側の冬場の乾燥は欧州以上だと思います。

さらに最近多いのが、冬場のピッチの極端な低下です。これも上に示した乾燥による環境変化によって引き起こります。
特に中音部の下の音域辺りが、ピアノの構造上もっともピッチの変化を伴いやすく、極端な場合はここだけ直せば大丈夫のこともあります。これも長い目でみれば、後々上のような乾燥による木の被害をもたらしかねないので、早くから加湿器などの対策を取るべきだと思います。
私はとあるピアノスタジオの7台のピアノを1ヶ月ごとに調律していますが、季節ごとのピッチの変化には改めて驚きます。春の間は比較的安定し、夏にかけて湿度が上がってくると7台のピアノのピッチが一斉に上がり始めます。そして秋になるとまた落ち着きを戻し、冬にかけて乾燥し始めると今度は7台すべてのピッチが一斉に下がり始めます。夏場はピッチが上がり、冬場は下がる、主に湿度の変化による木の伸縮による影響なのですが、弦の強い張力を押しのけて木が反るのですから、木の力というのは凄いですね。そして、まさにピアノは生き物であると実感する瞬間です。もしこの間何も調律しなければ3ヘルツくらいは簡単にピッチは上下するでしょう。

特に日本の気候はピアノの本場のヨーロッパと比べて1年を通して気候変動が激しいので、ピアノにとって不安定な状況になりやすいです。それがピアノの寿命を縮めるということになりかねないのです。1年を通して温度湿度管理ができるホールの保管室のような場所におかれれば理想ですが、それは一般家庭ではかなり難しいでしょう。特に気をつけなければならないのが冬場の乾燥で、エアコンを使用する→より乾燥する→より温度を上げる→より乾燥する→より温度を上げる→・・・・・・  このような良くない流れをつくってしまっているように思います。湿度がある程度保たれれば温度を上げなくても暖かさを感じるものです。

ピアノの寿命をあと10年伸ばすために、そして1年通して安定したピッチで気持ち良く弾いていただくために、冬場の温度湿度管理は特に気をつかっていただきたいと思います。

その他、使用頻度が寿命に影響するか?と疑問を抱くかたも多いかと思います。例えば車は乗る距離が増えれば増えるほど寿命は早くなりますね。しかしピアノの場合、それはあてはまりません。確かに使用頻度が増えれば、各部品パーツの消耗は早くなります。しかし、その時は消耗した部品を交換すれば済むことであり、ピアノそのものにダメージを与えるというものではありません。そして、この部品交換の修理はオーバーホールとは言いません。
そして、弾けば弾くほどピアノの音は荒れたりばらつきが出てきます。しかし、これも寿命ではありません。原因はピアノの弦を叩くハンマーという部品の硬化によるもので、整音という音色の調整で改善できるからです。(間違った整音をすると音がこもり、前より悪くなります)
ただ時として、これらを寿命と言って新しいピアノと交換を奨める技術者や営業マンもいるかもしれませんが、結局その元のピアノはどこかに売られ他の場所で使われることとなるでしょう。
本来たくさん音楽的に弾けば弾くほどピアノは木が馴染んで、音に潤いと張りが出てきます。そして、それには音を整える調整は欠かせません。かつて世界中に自分のピアノを持ち込んだ大ピアニスト・ホロヴィッツが弾いていたピアノが素晴らしいのも、ホロヴィッツの音楽性と専属の調律師によって「ホロヴィッツの音」がするピアノが作り上げられたからです。
ピアノが寿命と思う前に、世界に一台の自分スペシャルのオリジナルのピアノを作っていきましょう。


ピアノの森・調律工房
森 一夫



 


ピアノ調律.net 編集部


 




バックナンバー一覧


メルマガ登録・解除 ID: 0000236488
人気調律師達がやさしく語る♪ピアノと調律に役立つ話
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ

---------------------------------------------------------------------




■調律師への質問

ピアノや調律にかんして疑問・質問があれば、ぜひピアノ調律.netの登録調律師に質問してみてください。
読者のみなさんに参考になるご質問に関しては、調律師より回答し、メルマガ上で公開いたします。

具体的なご質問、どしどし、お寄せくださいませ。
お待ちしております。
質問・疑問はこちらのフォームから。


■執筆者への感想・メッセージ

感想・メッセージは、こちらのフォームから。
「~さんのメルマガ記事感想」と題して、記事の執筆者名を明記してお送りください。
いただいた感想は必ず執筆者までお届けします。
ただし、執筆者からのご返信は確約できかねますので、その点、どうぞご了承ください。

執筆者も、感想を楽しみにしていますので、どしどしお待ちしております。

---------------------------------------------------------------------

■ 
□■ ピアノ調律師は、もう自分で選ぶ時代です。 

好みのピアノ調律師を選べるサイト

----------------------------------------------------------------------
メールマガジン 【人気調律師達がやさしく語る♪ピアノと調律に役立つ話】
----------------------------------------------------------------------
□ 発行・編集 : ピアノ調律.net 
□ ウェブサイト : 「ピアノ調律.net」 
□ 配信期間 : 不定期
□ 社内・友人など転送はご自由です。
□ ご意見・ご感想はこちらからお願い致します!

----------------------------------------------------------------------
     Copyright (c) 2008 ピアノ調律.net. All rights reserved. 
----------------------------------------------------------------------