Q&A: 「ヤマハのグランドピアノ、10年調律なし」どんな修理と費用、料金がかかるの?

調律師さん方の視点から、この点についてどう思うのか聞いてみました。

 




Q
: Q&A: 「ヤマハのグランドピアノ、10年調律なし」どんな修理と費用、料金がかかるの?



「ヤマハのグランドピアノ、10年調律なし」。このケースの長期放置ピアノについて、いったいどんな修理項目があり、またその項目それぞれにいくらの費用、料金がかかりそうなのか、できるだけ詳しくおしえてください。つまり、作業報告書のような回答を期待しています。内容は、回答いただく調律師さんの実際の修理項目と料金体系でもかまいませんし、あるいは一般的なそれでもかまいません。ヤマハのグランドピアノを、調律することなしで10年放置すると、一般的にはどんな状態になっているのか。そのよくあるケースを想定しつつ、回答をいただければと思います。



ピアノ調律.net 編集部からの質問



A:調律師さんの回答




 アップライトの件でも回答しましたが、基本料金¥14,000 1年事に¥1,000UPこの計算でいくと10年間は24,000になりますが、実際は¥20,000~¥22,000になります。修理料金は別料金になります。





 放置されていたピアノは、調律の狂いを修正するだけでも手間がかかりますが、怖いのは湿気や極端な温度変化、虫やカビによる害などですね。

ハンマーやフェルトの痛み、反響板の反りなど。ピアノを見させて頂き、調律師よりもまずメーカーによる修理が必要となればそのようにご案内させて頂きます。

放置といっても部屋を締め切って湿気がこもったままにせず、弾いたり調律していないだけであれば、調律だけで問題なく元通りになるケースが多いと思います。

調律だけであれば基本料金の範囲内で対応させて頂きますが、初回は調律に時間が掛かったり後日のくるいが出やすいことはご了承ください。

かつき調律




 私のところに依頼があるピアノは殆どがこの状況なので、
いつも実施している作業を説明します。
先ずは、清掃です。全体にほこりがかぶっているので
掃除機や柔らかい毛のブラシでほこりをとります。
ハンマーやアクションも大事ですが、棚板(キーベッド)
は特にきれいにしています。理由はベッディングスクリュウーの調整時にほこりがあったらアウトだからです。
次に、ハンマーフレンジやウイペンフレンジのビス締めです。一度全体を締め、走りがあれば直し、同時にハンマー割も行います。ウイペンも同様に。
ハンマー割を行うと必ず音色が変化するので、後の工程で
音色の修正が必要です。(整音作業)
また、このとき各フレンジのスティックやガタがあれば直します。
アクションの各部品の動きが正常ならば、次は整調に入ります。
ジャックの位置、高さの調整。アクションを棚板へ戻し
あがきをみながらベッディングスクリュウを調整、特にバスと中音部でアクションの底の部分からのみ調整するスクリュウは要注意です。
次に鍵盤均しのばらつきをみます。そのあとあがき(キー深さ)を調整します。
次はレットオフ(接近)ですが、打弦距離が足らなければ
ストローク調整を先にします。
アクションを引き出して、次はドロップ調整。
次はスプリング、バックチェック。
再度アクションを入れて、ナッハドロックを揃えます。
これはストロークとあがきで調整します。
次は調律ですが、10年経過のピアノであれば、先ずはピッチ上げで、仕上がりが442Hzならば当然下がるのを
見越して高めに調律します。この段階であまり大雑把にしてしまうと、第二調律が大変になります。
第二調律が終わったら次は仕上げ調律をします。
ここまで終わったら、できれば少し弾いてもらうのがいいですが、時間がない場合は、整音します。
ハンマー割の確認作業として、シフトペダルを使い、
三弦の中央と右側の弦を消音して左側の弦のみ打弦して
シフト量を揃えて調整します。
シフトペダルを戻して、ノーマルな状態で音色を聴きます。
次にダンパーペダルを使いながら、ハンマーを吊り上げる
道具で吊り上げ、弦に接触させ、3本の弦をはじきます。
その音が3本同じ響き(音)になるよう、ハンマーを整形
します。
これでだいぶまとまった音になりますが、刺激的な音は針を刺しながら音色を揃えていきます。
強い音でも、ソフトな音でも、夫々ばらつきがないように
調整します。
整音作業をすると調律もやや乱れてきますので、ここで
再度仕上げ調律を行います。
あとは、ペダルの突き上げ棒のダブルナットで、各ペダルの遊びを調節し、固定します。
全体で共鳴、共振がないか点検します。
以上が私の作業内容ですが、時間としては6時間から8時間位、場合によってはそれ以上かかる時もありますので、お客様には依頼を受けた段階で説明しています。
料金的には整音作業の同時打弦(三弦合わせ)まで行った場合は25,000円+消費税=27,000円です。
その前の段階の調律までの場合は21,600円(消費税込)です。




●:調律10年空きの場合
まず、ピッチの低下が著しいと考えられます。
調律基本料金+放置料金
例えば ¥15,000(基本)+¥10,000(放置)=¥25,000
最低でも、¥25,000 位が目安となります。
●:フエルトが虫から食べられてると、バランス・フロントのブッシングクロスの交換で¥50,000位掛かります。
25,000+50,000=¥75,000
この場合¥75,000になります。
●:整調がバラバラの場合
整調料金¥20,000
75,000+20,000=¥95,000
●:整音がバラバラ
整音料金¥20,000
95,000+20,000=¥115,000
●:スティック修理
1本@¥500×本数
¥25,000~大まかの、お値段になります。
ピアノの状態によって変わって参りますので、あくまでも参考としてお考え下さいませ。






 グランドピアノで10年調律しないとどうなるか、基本的にはアップライトの場合と変わりありません。アップライトピアノ同様、一番問題となるのはピッチ(全体の音の高さ)の低下です。
ただグランドピアノの場合、アップライトのフレンジコードという部品はないので、ヤマハのアップライトのようなこの部分の修理の必要性はなくなります。ですから、ここにかかる修理料金¥20000(私の場合)の負担はなくなります。
ただ、グランドピアノを持っているかたは、ピアノの先生やある程度ピアノが弾けるかたが多いことと、絶対数が少ないことから、10年以上調律を放置するケースは、アップライトピアノのケースほどはないと思います。
で、10年調律しないというよりも、10年調律以外の調整、特に整音の調整をしないケースが問題となります。というのは、グランドピアノの場合はピアノをかなり弾くかたが多いのですが、弾けば弾くほど音は荒れてきて全体のバランスも悪くなるので、整音という音色の調整をして音色の改善をするべきなのです。しかし、特にこの整音をせずに、調律とメカニックの調整(整調といいます)だけを技術者が行っているケースも多いのです。このような場合、だいたい音はキンキンした硬い耳障りな音になってきます。また、キンキンした音にストレスを感じ、音色を調整したことによりモコモコしたこもった音になって、さらにストレスを感じてしまうというケースもあります。
または、ピアノを買い換えた方がよいと勧められるケースもあるかもしれません。。確かにピアノを買い換えれば、音色は変わり満足されるかもしれませんが、何百万という金額がかかります。かたや整音にかかる費用は、かかってもその百分の一以下で済みます。
整音によってピアノの音があまりにも変わるので驚かれるかたも多いのですが、正しい整音をすれば、それこそ新品の時のような音の張りと潤いを取り戻せます。
そして、多くのかたにそのことを知っていただきたい、これからもそのような信念をもってこの仕事を続けていきたいと思っております。


ただ、看板力のある会社に頼んでも、その音の問題が解決されるとは一概には言えません。むしろ、「コンサートピアノではこのような調整をしているのですからこれで間違いありません」と言われて、結果に納得がいかなくても納得させられてしまうケースも多いように思います。
でも実際は、月に何回かしか使用しないコンサートホールのピアノよりも、毎日何時間も弾かれるご家庭のピアノの方が音が荒れてくることが断然多いです。
また、先日伺ったお客様で、弦が切れた修理に伺いましたが、メーカーから買い換えを勧められたと言われてビックリしました。まだそれほど年数が経っていないピアノであったにもかかわらずです。
今の時代、ピアノの販売台数は20年前とは比べものにならない激減しています。子供さんの数が激減したことと、お母さん世代で使っていたピアノをそのまま子供さんが使えるので買い換え需要がないことが原因かと思いますが、もう少し一台のピアノに愛着を注いで、その良さをいかに引き出していくか、そのような方向に意識が向ってもいいのではとも思います。
地道なようですが、その技術の蓄積が10年、20年後に花を開くときがくるのではと思います。


ピアノの森・調律工房
森 一夫



 


ピアノ調律.net 編集部


 




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