アップライトピアノを弾くと、ビリビリとした音(共鳴ノイズ)が。なぜ?

  • 自宅のアップライトピアノですが、ある音を弾くと、ビリビリとした音(共鳴ノイズ)がでます。その音ではなく、別の音を弾いたときに出ることもあります。これはいったい何が原因なのでしょうか?

この記事では、共鳴ノイズついて、色々なピアノ調律師さんに話を聞いてみました。何かしら参考になれば幸いです。

アップライトピアノを弾くと、ビリビリとした音(共鳴ノイズ)が。なぜ?

ピアノ調律師さんからの回答をご覧ください。


ある特定の振動数に対して共鳴振動を起こす現象です

ピアノ調律アミュース 鈴木栄蔵

ピアノ調律アミュース 鈴木栄蔵
(千葉県柏市花野井)
 鈴木さん

この現象は空気の乾燥や、経年変化、又は何らかの衝撃がもとで、ビスが緩んで部品と部品の間に僅かな隙間が出来たり、接着が剥がれて隙間が出来たり、響板が割れて隙間が出来たりすると起こります。

キャビテーションという現象で、ある特定の振動数に対して共鳴振動を起こす現象です。

よくあるケースとしては、アップライトピアノ、グランドピアノともに蝶番から共鳴する場合があります。また、アップライトピアノでは棚板が下がり、ブラケットにガタが生じた場合共鳴することもあります。

グランドピアノでは大屋根を支える支え棒からノイズが出ることもあります。響板が割れるととても大きな音がすることもあります。

対処方法は、隙間ができた箇所をしっかり塞いで共振をとめますが、ノイズを発生している箇所を見つけるのに大変苦労することが多いようです。


どこから共鳴しているのかを見極める事が大事

前田調律事務所

前田調律事務所
(和歌山県和歌山市松ケ丘)
 前田さん

ピアノの共鳴現象は、どんなピアノにも起こりうる現象です。古いピアノになると起こりやすいとは言えますが、新しいから起こらないというものでもありません。

全ての物には固有の振動数というものがあり、近くで同様の振動数の物が鳴れば共鳴して振動します。例えば、真ん中のドの音を鳴らした時、似たような固有振動数を持つもので、震えやすいものがあれば、それが共鳴します。

オクターブ上のドや、オクターブ下のドでも同様になることがあります。ただし、固有の振動数は温度によっても変化しますし、湿度によっても鳴りやすさが変わってきます。鳴ったり鳴らなかったり、違う音で鳴る事があるのはそのためです。

対処方法ですが、まずはどこから共鳴しているのかを見極める事が大事です。これが一番難しく厄介です。共鳴する場所としては大きく分けて2つ、つまり、ピアノの部品から鳴っているのか、ピアノ以外の物体から鳴っているのかです。

ピアノの部品からの共鳴としては、ヒンジ部分がよく共鳴します。蓋や譜面台などの開閉部分です。ネジを締めたり、手で押さえて共鳴が止まる部分を見つけ、フェルト等で押さえたりして、とにかく振動しにくい状態を作ります。

上前板や、下前板のわずかな隙間が原因の事もあります。後は金属の錠前が共鳴したりもします。

ピアノの以外の場所としては、ピアノの上に置いてある写真立てや、メトロノームなどです。またピアノの後ろに何かが落ち込み、ピアノ裏の響板と接触している事も考えられます。ピアノのそばの壁にかかっている掛け時計や、額縁、天井の照明器具が共鳴していた事もあります。

とにかくまずは共鳴箇所を突き止める事が大事なのですが、鳴ったり鳴らなかったり、鳴っていてもどこから鳴っているのかとても分かりずらいです。

意外なところが共鳴していた、という事もありますので、勘と経験が頼りです。ある意味調律よりも難しいと言ってもいいでしょう。


1番多い原因が、ピアノの金属部分の緩み

ピアノの森・調律工房

ピアノの森・調律工房
(埼玉県さいたま市浦和区)
 森さん

ピアノのノイズ、これも弾いていて結構ストレスになりますね。原因ですが、いくつかあります。

まず1番多い原因が、ピアノの金属部分の緩みが音に共鳴して金属音が鳴るケースです。小さなネジ1個緩んでいるだけでも結構大きな音がします。

そして特に多いのが、ピアノの屋根の蓋の部分に金色の長い金属がありますが、この中の芯が共鳴して鳴るケースです。鳴っている部分を手で押さえると共鳴音が止まるので、すぐにその部分が原因だとわかります。

その対処方ですが、調律師の方も結構苦労しているケースが多いようですね。その部分にフェルトを貼り付けたり、取り外して芯を曲げたり・・・。いずれも見た目が悪かったり作業が大変だったりします。

私の対処方を伝授しますと、柔らかいグリスを真鍮の金属部分に塗りつけます。柔らかいグリスが真鍮の隙間から中に入り芯を共鳴しにくくするのです。

また、ヤマハの多くの機種は、真鍮の金属の隙間が少ないものが多く、この場合は中にグリスが入らないので、バイスグリップで金属を挟んで芯を押さえつけます。

この二つを併用することで殆どの雑音は止まります。ユーザーのかたにはわかりにくいかもしれませんが、技術者でしたらすぐにわかるでしょう。

次に考えられるのが、共鳴板にヒビが入ったり、共鳴板の接着がはがれているケースです。この場合もキーンという金属音を発します。実はこのケースの場合は、結構修理が難しいことがあります。あまり多いケースはありませんが、主に高温乾燥による共鳴板の木のやせが原因です。日頃から十分に高温乾燥に気をつけましょう。

あとは音色そのものに原因がある場合もありますね。音が硬くてキンキンしていると、それがあたかも雑音のように聞こえてしまうのです。整音という音色調整により音を柔らかくすることで改善されますが、音をこもらすような整音は勿論だめです。

特に最近、ハンマーに薬品をつけることで音をキンキンさせたり柔らかくさせたりしたピアノが多くありますが、いくら整音しても音のキンキンやこもりがとれない状態になるので、絶対にダメです。

ピアノ本体以外に原因がある場合もあります。例えば、ピアノの上の置物や窓ガラス、電球の傘、あるいはピアノの後ろに物が落ちてそれが共鳴板に接触している、ピアノのキャスター(車輪)が浮いている、などなど色々なケースがあります。いずれも、その物をどけたり押さえたりすると雑音は止まります。

原因の発見までにかなり時間がかかるケースもあります。特に共鳴板やピアノから離れた場所での雑音は、技術者自身がピアノの音を鳴らしながら確認できないことが多いので、もしそのような場合はお客様にピアノの音を鳴らしていただいて技術者が場所を確かめる、あるいは技術者二人で場所を確認するという作業も必要になるでしょう。