Q&A: ピアノ調律師はピアノが弾けたほうがよい?

調律師さん方の視点から、この点についてどう思うのか聞いてみました。

 




Q
: Q&A: ピアノ調律師はピアノが弾けたほうがよい?



 「ピアノ調律師さんは、当然ピアノが弾けるのだとおもってました!」こういったピアノユーザーさんの声を現場の調律師さんはよく聞くそうです。実際はそうでないことのほうが多いのですが、それを知ったユーザーさんは驚くそうです。調律師として仕事をする上で、ピアノが弾けたほうがよいと思うかどうかについてお聞かせください。またその理由についても具体的にお願いします。

ピアノ調律.netからの質問





A:調律師さんの回答






 結論から言いますと、やはり弾けるにこしたことはないと思いますが、演奏テクニックと調律(調整・整音を含む)テクニックは全く別物です。
自分が弾けると、調律が自分好みとなる傾向になります。
逆に弾けない場合は、あくまでお客様の好みに合わせようとします。
ですので、弾けて更に、自分の好みを捨ててお客様の好みに合わせられれば一番と思います。





 ピアノは弾けたほうが良いです。
平成生まれの調律師は弾ける人は多くなっていますが、ピアノの習得時間が楽器の中ではかなり長く掛かり、幼少期の左右の脳の分離状態が必要とされますから倦厭されやすいのが現実です。

ヒット曲の触りだけでも弾けると受けるかもですね。
会話の糸口には最高のインパクトはありますから、是非一曲
覚えるようにして下さい。
music takano




 調律師としてまもなく35年。私は変わり種で、調律師になったのが34歳の時でした。ピアノとのかかわりは早く、6歳のころよりレッスンを受けておりました。途中5~6年のブランクがありましたが、ピアノを弾くということは日常の中にありました。
さて、遅まきながら調律師として活動を始めることになり、作業終了後には必ずピアノ演奏をすることをモットーにしておりました。ありがたいことに聞いたことのある曲は楽譜などなくても演奏できる特技があり、よくお客様のリクエストにもお応えしておりました。簡単な弾き方の指導なども致しました。そんなことが信頼と好感を持たれ、顧客開拓に役立ちましたし、継続して調律の依頼を受けることも増えました。
以前(調律師になる前)は、調律師は当然ピアノが弾けるものだと思っておりましたが、意外や意外、弾ける人が少ないことに唖然と致しました。運転のできない技術者が車の整備をやっているようなもので、規定どおりに整備はしたものの実際に走らせてみたわけではない、ということと同じでそんな車、怖くて運転できない。弾かずしてピアノの状態の良し悪しがわかるとは思えません。
職人的に技術力に優れた調律師はたくさんいます。しかしながらピアノは楽器である以上、演奏してみなければわからないわけで、弾けない調律師という存在が私には理解できない。技術者認定試験にも残念ながらピアノ演奏技術は含まれていない。なぜか。いわゆる重鎮と呼ばれる古い方々が演奏能力がないからである。調律業界の歴史を振り返ると、技術点ばかりが優先され、芸術点への評価がなかったからである。
そのような状況を改めない限り、本物のピアノ技術者は育たないし良いピアノも生まれないのだと思う。





 弾けないよりは、弾ける方がよいと思って練習してます。 お客様に演奏して確かめてもらえるのであれば大変有難いですが、 自分は弾けないから弾いてみてほしい(もしくは弾ける人が留守)! ピアノ習いたての子供にもっと興味持たせたい 普段使わないから弾いてほしい などと意見をいただくこともあるので、リクエストが有る時は 確認もかねて、さらっと短い曲が1曲弾けると良いと思います。




 多くのお客様は調律師はピアノが弾けるものと思っておられるようです。しかしそうとはかぎりません。調律と演奏の技術は違うので、演奏ができなくても調律には影響はありません。
ならば、調律師はピアノが弾ける必要は全くないのでしょうか?それについてこれから話していきましょう。
今でこそ演奏経験者が調律師になるケースも多くなりましたが、一昔前の職人の徒弟制度時代には、ピアノ演奏や音楽経験が全くない方が調律師になることも多かったと思います。むしろ、ピアノを弾く時間があったら、そのぶんピアノの修理の技術を磨けみたいな風潮もあったように思います。
私がこの職についた30年前はいわゆるピアノブームの頃で、ピアノが今と違い多く売れて景気もよかった時代、会社に入ったときも演奏と調律は全く別という風潮がありましたね。今でも多くの会社は同じ状況だと思います。
元々ピアノが好きでこの職についたものの、その時は演奏からは離れたと思います。しかし、そのような中でも、常に音に対する疑問と関心は持っていたと思います。例えば、なぜ多くのピアノの音の高音部はこもっているのだろう?なぜ同じ機種でもピアノによって硬い音や柔らかい音がするのだろう?などです。
そんな中、ピアノ演奏の重要さを痛感したのは、古典調律と音色調整の整音を知った時です。古典調律による各調性の特色の違い、より音楽的な音色作り、これらは演奏しないと理解するのは難しいと思います。このとき、学生時代に音楽を勉強したことが決して無駄では無かったと思いました。
調律師はピアノが弾けた方がいいか、単刀直入に言えばイエスでしょう。
極論を言えば、調律師もピアニスト並に弾ければ理想です。ピアニストの気持ちがわかればどのように調整したらいいかより理解出来るからです。しかし、時間的にそれは難しいですし、生まれながらの才能もありますし、それゆえ演奏と調律が分業されているのでしょう。
勿論ピアニスト並に弾けなくても、ピアノを実際に弾くことで良い音のイメージが理解出来たらそれで十分でしょう。どのような音をピアニストは望んでいるか、初めは手探りかもしれませんが、経験を積むうちにだんだんと見えてくるものです。
そもそもピアノ製作の歴史は、演奏者の要望をピアノ製作者が反映して発達してきました。そのピアノは今完成形に至りましたが、その個々のピアノの音に関しては、演奏者の要望を技術者が反映してもっともっと発展していく余地が十分にあると思います。
その一方で、演奏者と技術者が分離しているため、ややもすると技術者が一方的に「これがこのピアノの音です!」と言いかねない側面も大いにあると思います。

ピアノが弾けた方がいいか、これは他にも議論があるところです。以前、もの凄いテクニックをお持ちのピアニストのお宅に調律に伺ったことがありましたが、そのかたが所属していた楽器店のピアノで公開演奏を頼まれた時、このピアノではタッチが重くて弾けないと店に申し出たところ理解してもらえず、渋々そのピアノで演奏し思ったような演奏が出来なかったと言うことです。
ピアノが鳴らなくタッチが重いピアノで同音連打や早いパッセージを弾くのはかなり困難です。ピアノが弾ければそれは痛いほどよくわかるはずです。
ピアノ調律調整技術と演奏技術の融合、これからはますます重要視されるべき課題ではないかと思います。過去の高度成長の時代に多くのピアノが作られました。それは素晴らしいことですが、箱物のハード面が先走って、音色などのソフト面が十分に追いついてきていないように思います。技術者や販売店が演奏者の意見を十分にくみ取れる柔軟な姿勢をこれからもっと意識していくことで、ピアノ業界はこれから更に発展していくのではと思います。

ピアノの森・調律工房
森 一夫


 


ピアノ調律.net 編集部


 




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